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薬剤師 宇喜多 和美
鍼の種類
豪鍼(ごうしん)
豪毛(細い毛)のような鍼で、現在世界中で広く使われています。
刺入法は、鍼を直接皮下に刺入する中国式と、鍼管という管を用いて刺入する日本式があります。
鍼を管に入れて指先でたたいて皮膚に刺入する管鍼法は日本独自の方法で、刺入時の痛みを少なくする工夫がなされたものです。
感染予防のために鍼も鍼管も使い捨てのものがよく使用されます。
円皮鍼・皮内鍼
「置き鍼」と呼ばれるもので、短い鍼を皮膚に貼ることにより、侵襲が少なく、持続的に刺激を与えるものです。
円皮鍼と皮内鍼の大きな違いは刺入方法です。円皮鍼は皮膚に真っ直ぐ刺入しますが、皮内鍼はテープと鍼が独立していて、鍼が皮膚と水平になる様に刺入します。
小児鍼(鍉鍼・ローラー鍼)
刺さずに皮膚に接触させる鍼です。
鍉鍼(ていしん)は鍼の先端が丸く、針状になっていないため刺さらないようになっています。
ローラー鍼は、柄のついたローラーに三角状の突起がついており、皮膚の上を転がして使います。
灸頭鍼
鍼の柄にモグサをのせて熱刺激も同時に与えます。
鍼通電
鍼に電気刺激を加えた鍼通電刺激療法は難治性の疼痛や麻痺の治療、鍼麻酔などに用いられます。
灸の種類
灸は手指先でモグサ適量をひねって形作り、皮膚にのせて線香で点火して温熱刺激を与える施術法です。
有痕灸(直接灸)
皮膚に直接モグサをのせて燃やし、灸痕を残すもの。
透熱灸
熱を深部まで通す灸(糸状大・半米粒大・米粒大・小豆大・母指頭大)
打膿灸
大きめのモグサで火傷をさせ、その上に膏薬を貼付して化膿を促し治癒力を高めるもの
焼灼灸
熱による組織破壊を目的に、イボ・魚の目などの治療に用いる
無痕灸(間接灸・温灸)
物や空気などを介在させて燃やし、灸痕を残さないもの。
知熱灸
米粒大程度のモグサを直接皮膚に置いて点火した後、熱いと感じたら速やかに消化します
隔物灸
皮膚とモグサの間にしょうが、にんにく、塩などを介在させます
台座灸
皮膚とモグサの間に紙などの台を介在させ熱を和らげます
温筒灸
紙の筒を用いて皮膚とモグサの間に空気を介在させ熱を和らげます
灸頭鍼
鍼の柄にモグサをのせて熱刺激も同時に与えます
棒灸
棒状のモグサを燃焼させて皮膚を温めます
電気温灸
電気により温度著性可能なヒーターで皮膚を温めます
鍼灸の理論
鍼灸は体表にある経穴を針や熱で刺激する治療法です。
皮膚上にある経穴への刺激は、局所だけでなく、経絡を通じて全身にさまざまな効果を発揮するとされています。
鍼や灸による侵害受容器、機械受容器、温度受容器など皮膚や体内の受容器への刺激はC線維、Aδ繊維、Aβ繊維などの求心神経系※1や自律神経を介して局所・脊髄・脳に伝達し、疼痛抑制系、筋骨格系、自律神経系、ホルモン系、免疫系などに作用することが明らかになってきました。
しかし、経穴や経絡に関しては、実はいまだ科学的な結論は得られていません。
※1末梢からの刺激を中枢へ伝えるもの
鍼の作用
一般的に痛み刺激は、交感神経を亢進させ、副交感神経を抑制しますが、浅い刺入による鍼刺激は副交感神経を亢進させ、交感神経α作用※2を抑制し、深い刺入による鍼刺激は、交感神経α作用を亢進させ、交感神経β作用と副交感神経を抑制することが明らかになっています。
※2交感神経にはα作用とβ作用とがあり、α作用は血管収縮性に働き、β作用は心拍促進性、収縮亢進性に働きます
鍼による疼痛抑制作用機序については、大きくは①上行性疼痛抑制機構、②下行性疼痛抑制機構、③神経伝達物質性疼痛抑制機構に分類されています。
灸の作用
モグサの燃焼温度は通常110~130℃で、皮膚表面温度は60~80℃と低くなるのが特徴です。
モグサに含まれる精油成分(シネオール、カンファ―、βオフィレンなど)の香りは鎮痛作用なリラックス効果があるとされています。
白血球数増加・好酸球減少・副腎重量の増加をもたらす報告や、コルチゾールの分泌促進による炎症の改善、ストレス蛋白が生成されることにより変性タンパク質の修復が促されること、直接痛みの受容体に関与し疼痛効果をもたらすことが注目されています。
鍼灸治療の有害事象
鍼は、刺入時の痛みや鍼刺激による末梢血流増加や筋肉の弛緩による眠気やだるさなどの生体反応が起こることがあります。
副作用としては、治療中の症状悪化(疼痛増強など)や失神・嘔気・嘔吐・下痢・めまいなどの自律神経反応、筋力低下、血管拡張による痒み、発汗、頭痛などがあります。
鍼による事故としては、鍼の残留、血管損傷、皮膚病変、筋損傷、骨髄損傷、末梢神経損傷、内臓損傷、細菌・ウイルスの感染が考えられます。
灸は、熱刺激により血流がよくなるため眠気やだるさなどの生体反応が起こることがあります。
副作用としては、血管拡張による痒みや発汗、血圧低下、強い倦怠感、のぼせ、発熱、嘔気などの「灸あたり」といわれる自律神経症状が出ることがあります。
灸による事故としては、熱傷、低温火傷などがあります。
薬剤師 宇喜多 和美
鍼灸の歴史
鍼灸は古代中国で行われていた医療で、日本には飛鳥時代に伝来し、奈良時代に日本の医療と定められました。
安土桃山時代には鍼を小槌で叩いて刺激する日本独自の「打鍼法」、江戸時代には管の内腔に鍼を入れ、針柄を指でたたいて皮膚に刺入する「管鍼法」が開発されました。
灸は平安時代に医師によって貴族社会で常用され、鎌倉時代に寺の施灸で一般に普及し、江戸時代には庶民にとっての健康維持療法として親しまれました。
しかし明治時代に西洋医学が国の医学と定められ、伝統的鍼灸技術の継承が経たれてしまいます。
その後昭和時代には鍼灸復興運動が起こり、第二次世界大戦後、鍼灸が医業の一部として再び認められるようになりました。
現在日本では、鍼灸は自由診療で行われる場合と一部健康保険が適用される場合があります。
現在、鍼治療は世界60か国で行われています。
鍼灸を施術できる資格は国によってさまざまです。
世界各国の鍼施術者の資格として、フランス・ベルギー・オランダ・スウェーデン・デンマーク・ノルウェーでは医師のみ、イギリス・オーストリアでは法的規制は無し、米国では医師・鍼師(州により異なる)、中国では一部の中医師、韓国では韓医師(針灸専門医)、日本では医師と鍼灸師(はり師)になります。
経絡(けいらく)
鍼灸刺激により「気」と「血(けつ)」が伝達するルートを「経絡」といいます。
経絡は主要な線である経脈と、そこから分岐する酪脈からなります。
主な経脈には、「十二経脈(正経)」と「奇経八脈」があります。
十二経脈は、太陰肺経から始まり、陽明大腸経、陽明胃経、太陰脾系、少陰心経、太陽小腸経、太陽膀胱系、少陰腎経、厥陰心包経、少陽三焦経、少陽胆経、厥陰肝経の順につながる12の経脈があり、それぞれ四肢への分布状況により「手の」または「足の」という語をつけて用いられます。
奇経八脈には督脈、任脈、陽維脈、陰維脈、帯脈、陽蹻脈、陰蹻脈、衝脈があり、この内の督脈、任脈の2脈と十二経脈を合わせた「十四経脈」が標準的な経脈となっています。
経穴(けいけつ)
「経穴」は体表に現れた反応点かつ治療点のことで、いわゆるツボと呼ばれる場所です。ツボは日本で古くから用いられてきた経穴の俗称です。
経穴は正穴(せいけつ)、奇穴(きけつ)、阿是穴(あぜけつ)の3つに分類されます。
正穴は十四経脈上にある経穴のことで、全身で361種(670穴)がWHOで定められています。
奇穴は十四経脈上にはないが独自の効果がある経穴、阿是穴はある病態で特異的に出現する経穴のことです。
WHOは十四経脈名をアルファベットの略号で表し、経穴には番号をつけて表すように定め、今日ではこのアルファベット表記の経穴名が国際的に用いられています。
薬剤師 宇喜多 和美
気虚
息切れ・喘息———肺気虚で、呼吸機能が低下することによっておこる症状。
痰が薄く量が多い———脾気不足のため、脾の水湿運化機能が失調して痰湿が生じます。
カゼをひきやすい———肺気虚のため、体表を守る力が弱くなり、外邪の侵入を受けやすくなります。
疲労感———脾気の不足によって、気血の生化※1が乏しくなり、脾に関係の深い四肢に栄養を送ることができなくなるための症状。
※1 脾胃によって飲食物が消化・吸収されて気血が生成されること。
食欲不振———脾気虚のため運化機能※2が減退した症状。
※2 気血を生成し、全身に運ぶ機能。
軟便———脾気虚で、脾の昇清機能※3の減退し、水湿が停滞する症状。
※3 脾が飲食物を消化吸収して作った気を、体の上部に持ち上げたり、内臓を正常な位置に維持したりする機能。
六君子湯
【組成】 人参・白朮・茯苓・甘草・半夏・陳皮・大棗・生姜
【適応症】脾気虚の痰湿。元気がない・疲れやすい・食欲がない・食べると腹がはるなどの脾気虚の症候に、悪心・嘔吐・呑酸・上腹部のつかえ・水様便、あるいは胸苦しい・咳嗽・痰が多い、あるいは浮腫などの痰湿の症候を伴うもの。
本方は補気健脾・化痰の代表処方です。
燥湿化痰の半夏は制吐・祛痰・鎮咳作用を持ち、陳皮と共に胃腸の蠕動運動を促進します。
生姜も制吐・祛痰作用があり、胃粘膜を刺激して食欲を高め蠕動を促進します。
生姜は半夏の制吐・毒性を弱めて制吐作用をつよめるので、両者はよく同時に配合されます。
陳皮も制吐・去痰作用を持ちます。
大棗は諸薬を調和して健胃します。
このように蠕動を促進して溜飲※4を除き、祛痰・鎮咳します。
※4食後ゲップや胸やけが多くて、みぞおち辺りが常に気持ち悪い状態。
陰虚
喘息・咳嗽・痰が少なく、切れにくい———肺および腎の陰虚によって、体内の津液が不足し燥を生じ、燥の状態を嫌う肺の症状があらわれます。肺気の上逆によってあらわれる症状で治癒に時間を要します。
腰痛・耳鳴———腰痛は腎陰の不足によっておこり、耳鳴は腎気の不足によっておこります。
ほてり・寝汗・咽乾・夜間の咳嗽———腎陰虚のため虚火が上昇した陰虚火旺の症状です。
麦門冬湯
【組成】麦門冬・人参・半夏・甘草・粳米・大棗
【適応症】
肺気陰両虚———慢性の咳嗽(咳き込んでなかなか止まず顔が紅潮することが多い)・咽頭の乾燥感と刺激感・少量の粘痰あるいは無痰・口渇などの肺陰虚の症候に、元気がない・疲れやすい・息切れなどの気虚の症候をともなうもの。
胃気陰両虚———口渇・咽の乾燥感・乾嘔(かんおう)※5・吃逆(きつぎゃく)※6・曖気(あいき)※7・食欲不振・便がかたいなどの胃陰虚の症候に、元気がない・疲れやすい・息切れなどの気虚の症候をともなうもの。
※5ゲーッと音を出して吐きそうになる「嘔」の状態ながら、実際にはものを吐き出さないもの。からえずき。
※6しゃっくり。
※7胃に溜まったガスが音を伴って食道・口腔を経て体外に排出される現象。げっぷ。おくび。
本方は主に肺胃の陰虚を改善する処方です。
滋潤性のある麦門冬・人参・甘草・粳米・大棗と、燥性の半夏を組み合わせているところに特徴があります。
適応する病態は、慢性の炎症や消耗性疾患により気道や胃の粘膜の萎縮や分泌不足が生じ、粘膜の乾燥のために被刺激性が高まっている状況です。
主薬は生津潤燥の麦門冬で、滋養強壮作用によって粘膜を滋潤・栄養し体液を補充して分泌を増し、鎮咳・祛痰・消炎・抗菌ならびに強心の作用を持ちます。
人参・甘草には全身の機能を高めて消化吸収を促進して、抗利尿作用によって体液を保持して粘膜を潤します。また、祛痰にも働きます。
大棗・粳米も栄養分をふくみ、体液を滋潤します。
燥湿化痰の半夏は、粘膜刺激による咳嗽をしずめて気道内の痰を排出させ、悪心・嘔吐を鎮静し、蠕動を調整します。
大量の滋潤性の生薬の中に燥性の半夏一味を加えることにより、他薬のしつこさが減り吸収が促進されます。
以上のように、滋潤・栄養・鎮咳・祛痰などの作用が得られますが、消炎作用は弱いものになります。
目標とする症候をまとめますと、痰が少量で切れにくく、咽が乾燥して刺激感があり、咳が連続してこみあげ、甚だしければ顔か真赤になるものです。
以下のような点には配慮が必要です。
・痩せて枯れて水気の少ないものに適し、老人によくみられます。小児や水太りの肥満体に使うことは少ない。
・痰が多いものには適しません。服用により痰がますます多くなります。
・消炎の効果が弱いので、炎症が強いときには適しません。
滋陰降火湯
【組成】当帰・芍薬・地黄・天門冬・麦門冬・白朮・陳皮・黄柏・知母・甘草
【適応症】肺腎陰虚———乾咳・少量あるいは粘痰・咽のかわき・痰に血がまじる・呼吸促迫などの肺陰虚の症候と、ほてり・のぼせ・ふらつき・腰や膝に力がない・寝汗・などの陰虚火旺の症候をともなうもの
本方は体内の陰血を補う作用が強く、肺腎の陰虚症状をともなう咳嗽に適します。
咳は乾咳で痰は粘稠で切れ難く、呼吸音に乾性ラ音※8があり、皮膚は浅黒く乾燥し、便秘傾向で便は硬いものに用います。
※8気道内に大きな分泌物や閉塞物があるために生ずる連続的 な低いうなり・いびきに似た音。
知母と黄柏は虚火に対する主薬で、夜間の咳嗽・ほてり・微熱などの症状に対応します。
本方は滋陰薬が多いため、脾胃虚弱のものには慎重に用いなければなりません。
痰が多く、苔が厚いなどの痰湿咳嗽には不適当です。
陽虚
喘息・動くとゼーゼーする・呼気は楽であるが吸気がむずかしい———少しの動作によっても虚証が悪化して喘息もひどくなります。納気※9できないため特に呼気が苦しくなります。
※9肺によって取り込まれた気を腎が収める働き
腰冷・腰痛———腎陽が虚して寒が生じ腰の冷えや痛みがおこります。
夜間の頻尿———腎の気化作用※10の低下による症状です。
※10体内の不要な水や老廃物を尿という形に濃縮させる作用。
痰が薄く量が多い・浮腫———腎の水を主る機能が失調し、水湿が氾濫することによる症状です。
八味地黄丸
【組成】地黄・山薬・山茱萸・沢瀉・茯苓・牡丹皮・桂皮・附子
【適応症】
腎陽虚———腰や膝がだるく力がない・知力減退・動作が緩慢・ふらつき・耳鳴・下半身や四肢の冷え・寒がる・嗜眠傾向・インポテンツ・尿量が少なく頻回あるいは尿量過多・排尿に時間がかかる・排尿困難あるいは失禁・夜間多尿・遺尿※11など。多痰・水様便・浮腫をともなうこともあります。
※11昼夜関係なく尿を漏らすこと。
腎陰陽両虚———腎陽虚の症状とともに、ほてり・口渇・いらいらなどの陰虚の症候もときにみられます。
腎陽は腎陰を基礎に機能し、腎陰は腎陽の働きによって補充され、互いに依存し合った関係にあるため、腎陽を補うときは腎陰を補う必要があります。
また、補陽薬は温燥の性質があって陰液を消耗することからも滋陰の配慮が必要になります。それゆえ、一般に腎陽を補うときには補腎滋陰の生薬を配合します。
茯苓・沢瀉の利水作用によって水湿を除去し、腎の水をさばく機能を回復します。
附子と桂皮の寒散作用により内寒の諸症状の改善も可能になります。
特に桂皮の温腎納気作用によって腎の納気作用を調整し、喘息の症状を改善します。
麻黄附子細辛湯
【組成】麻黄・細辛・附子
【適応症】陽虚の表寒※12
※12病気の位置が浅表上部にあり、悪寒、頭痛、無汗、鼻閉、うすい鼻汁などの症状が出るもの。
辛温解表の麻黄・細辛と補陽祛寒の附子から構成されています。
麻黄・細辛は発汗・解熱に働き、麻黄は気管支平滑筋のけいれんを緩解して呼吸困難・咳嗽をしずめ、細辛は祛痰・鎮咳・鎮痛により麻黄を補助します。
附子は全身の代謝・機能を促進して抵抗力を高め、心臓の収縮力をつよめ血管拡張することにより全身の血行を促進して冷え・寒気をのぞき、麻黄・細辛の発汗を補助します。また、強い鎮痛効果も持ちます。
また、麻黄・細辛・附子は利尿作用を持ち、浮腫を軽減させます。
以上より、陽虚による喘息の治療に用いることができます。
薬剤師 宇喜多 和美
咳を引き起こす6つの原因として、寒邪、熱邪、痰湿、気虚、陰虚、陽虚が挙げられます。
寒邪
喘息・咳嗽———寒邪の侵入により肺の機能が乱されたための症状。
痰が薄白・口渇がない———寒邪が存在するため、痰の質が薄く、色が白く、量も比較的多くなります。津液※1は損傷されていないので口渇は起こりません。
※1人の体の中にある正常な体液(水液)の総称
悪寒・発熱・頭痛・無汗———風寒外邪の侵入によって起こる表証の症状。必ずしも現れるとは限りません。
麻黄湯
【組成】麻黄・桂枝・杏仁・甘草
【適応症】悪寒・無汗・発熱・頭痛・身体痛・咳嗽あるいは呼吸困難・口渇がないなどで、鼻閉・鼻水・ふるえなどをともなうことが多い
強力に身体を温めて一旦発熱に働き、その後は速やかに発汗により解熱させます。
発汗・解熱が主作用です。
一般的な感冒などに軽々しく用いるべきではなく、つよい悪寒と無汗があり体力の十分あるものに使用します。
小青竜湯
【組成】麻黄・桂枝・乾姜・甘草・細辛・半夏・芍薬・五味子
【適応症】咳嗽・呼吸困難・喘鳴・白色でうすい多量の痰・くしゃみ・鼻水・鼻閉などの寒痰の症候に、悪寒・頭痛・身体痛・発熱などの表証をともなうもの
表証がなく寒痰の喘咳のみのものにも用いる
表寒を伴う寒痰の咳嗽・呼吸困難に対する代表処方です。
適応する症候の特徴として、悪寒・発熱・頭痛・身体痛・関節痛などの表寒の症状があることですが、発熱は一般に高くなく、発熱がなくても用います。
稀薄で白い大量の痰・鼻水・くしゃみの症状があることも特徴になります。痰・鼻水はうすく白色であり、黄色や緑色ではありません。
体内の水分が過剰なために冬期に寒くなるとゴロゴロ・ゼーゼーと喘鳴を伴い水様の鼻水やよだれを出す状態、痰の量が多くゴロゴロ音がする状態に適します。
辛燥の性質が強いので、空咳、口渇などの陰液不足の症状がみられる状態には適しません。
熱邪
喘息・荒い呼吸・咳嗽———熱邪が肺を犯し、肺気を詰まらせ、肺気が上逆して起こります。熱の性質によって呼吸が荒く速くなります。
粘っこくて黄色い痰———熱が津液を損傷するため、痰は濃縮されて粘りが強くなり、色も黄色くなります。
胸悶※2・胸痛———痰湿と熱邪が肺を塞ぐためによって起こる症状です。
※2胸部の重圧感や息苦しさ、圧迫感などの症状
口渇・冷たい飲み物を飲みたがる———熱邪が津液を損傷することによっておこる症状です。
発熱———強い熱邪が全身にひろがる症状もみられます。
尿が濃い黄色・便秘———内熱の更新を示す症状です。肺と表裏の関係にある大腸の熱が盛んになり、津液を損傷することによって起こります。
麻杏甘石湯
【組成】麻黄・杏仁・石膏・甘草
【適応症】咳嗽・呼吸困難・呼吸促迫※3・口渇・熱感・発熱
※3呼吸のバランスが崩れていること
肺熱の咳嗽・呼吸困難に対する基本処方です。
身熱・痰が黄色で粘りがある・口渇などの熱性症状を伴う咳嗽に適します。
五虎湯
【組成】麻黄・杏仁・石膏・甘草・桑白皮
【適応症】咳嗽・呼吸困難・呼吸促迫・口渇・熱感・発熱・咽痛・強い咳嗽
麻杏甘石湯に消炎・鎮咳する桑白皮が加わった処方です。
麻杏甘石湯より消炎・鎮咳作用が強化されています。
咽頭痛・咳嗽の強いときに用います。
清肺湯
【組成】桔梗・桑白皮・貝母・杏仁・黄芩・山梔子・五味子・竹筎・麦門冬・天門冬・当帰・茯苓・陳皮・生姜・甘草・大棗
【適応症】慢性の咳嗽・粘稠性で切れにくい多量の喀痰(痰が切れるまではげしく咳き込む)・咽痛などの肺熱の症状に、体のほてり・のぼせ・いらいら・口渇・口内炎・嗄声(させい)※4などの陰虚の症状をともなうもの
※4声のかすれ
慢性の炎症による咳嗽・喀痰に用います。
慢性の気管支の炎症で痰が沢山でてきているのに痰は粘稠性で切れにくく、咳が激しく出て苦しむ症状に用います。
痰湿
喘息・咳嗽・痰鳴※5———痰によって気道が塞がれるために現れます。
※5気道内に痰が溜まることによって生じる異常な呼吸音
痰の量が多い———体内の痰湿が多くなると肺から大量の痰が出ます。痰は熱が少ない場合に多く排出します。
胸悶———粘稠性のある痰が肺気を塞ぐため、胸が重苦しくなります。
悪心・食欲不振———痰湿の停滞による悪心・食欲の低下がみられます。
半夏厚朴湯
【組成】半夏・厚朴・茯苓・蘇葉・生姜
【適応症】悪心・嘔吐・吃逆(きつぎゃく)※6・曖気(あいき)※7に上腹部膨満感やつかえなどの気滞の症状をともなうもの
※6しゃっくり ※7げっぷ
咳嗽・白色の喀痰・咽喉部の刺激感・嗄声・胸部が張って苦しいなどの症状で、甚だしければ呼吸困難あるいは喘息用発作をともなうもの。
軽度の浮腫を生じることもある。
咽に閉塞感があり吐いても出ず飲みこんでもとれない(梅核気)。ただし食事などの嚥下に障害は無い。
咳嗽・喘息に胸悶のような気滞症状がみられる場合に使用します。化痰理気の作用により胸の症状が楽になります。
気管支や咽喉部の軽度の炎症・気管支の痙攣・分泌の亢進・痰の停滞などによって上気道の刺激性が高まり、咳嗽・喀痰・呼吸困難が生じた状態に用います。
ただ、化痰止咳の作用は強くありません。
痙攣性の咳嗽、また、声帯・気道の炎症性浮腫も起こり呼吸を阻害して、嗄声などが生じている状態に用います。
精神的な原因による喘息にも適します。
陰液を消耗する傾向があるので、陰虚火旺の症状(舌紅・苔少・口渇・のぼせなど)がみられるときは使用しません。
柴朴湯
【組成】柴胡・黄芩・大棗・人参・甘草・半夏・生姜・厚朴・茯苓・蘇葉
小柴胡湯に半夏厚朴湯を合わせた処方で、両者の適応を備えます。
【適応症】小柴胡湯の適応症※8に、咳嗽・喀痰・呼吸困難・喘鳴あるいは悪心・嘔吐・上腹部膨満感などの痰湿の症候をともなうもの
※8発熱性疾患の経過にみられる、発熱・往来寒熱・胸脇部が張って苦しい(胸脇苦満)・胸脇部痛・口が苦い・悪心・嘔吐・咳嗽・咽のかわき・食欲がない・目がくらむなどの症候
ゆううつ感・いらいら・怒りっぽい・口がにがい・胸脇部が張って苦しい・寝つきが悪いなどの肝鬱化火の症候に、元気が無い・食欲がない・疲れやすいなどの肺気虚の症候と、悪心・嘔吐・咳嗽・多痰などの痰湿の症候をともなうもの。
半夏厚朴湯により気管支のけいれんを止め咳嗽・呼吸困難・喘鳴を止め祛痰作用をつよめて胃腸の蠕動を調整して溜飲※9を除きます。
※9消化不良で胃部に溜まった飲食物により、胃酸がせりあがる症状
小柴胡湯は鎮静・消炎・自律神経調整に働きます。
情緒不安定・憂鬱・イライラなどの肝鬱気滞の症状をともなう咳嗽・喘息に適します。
理気化痰作用が主で、乾燥性が強いので、口渇・空咳・のぼせなどの津液不足・陰虚の症状がみられるときは不適当です。
薬剤師 宇喜多 和美
解表剤
感染症の初期にみられる悪寒・頭痛・身体痛・発熱などの症候である表証を緩解する処方を解表剤といいます。
感染症の初期には発汗させて熱の放散をつよめる方法が有効になります。
病邪が体表部に侵入したために表証が生じると考え、症候の違いから風寒表証(表寒)と風熱表証(表熱)に分けられます。
表寒には辛温解表剤が使われます。
表熱には辛涼解表剤が使われます。
辛温解表剤
辛温解表剤は、悪寒・頭痛・発熱・身体痛などの寒証に伴う表寒に適応するものです。
表寒は病邪に対する抵抗力の差によって2つに分けられます。
表実:激しい悪寒・無汗(体の反応がつよいものの反応)
表虚:軽度の悪寒・自汗※1(体の反応がよわいものの反応)
※1軽度の自然発汗で、体がしっとり汗ばむもの
個体によって表実と表虚にはさまざまな移行型がみられます。
表寒は時間経過と共に化熱して、表熱あるいは裏熱に転化するので、この間の移行型もさまざまにみられます。
表寒では、体表血管の収縮・汗腺閉塞などの熱の放散を抑制する反射がみられるので、体表血管を拡張してつよい発汗作用を表す解表剤を用います。
表実に対してはつよい発汗を促しますが、表虚に対しては発汗を軽度におさえる必要があります。
麻黄湯
【組成】麻黄・桂枝・杏仁・甘草
【適応症】表寒・表実:悪寒・無汗・発熱・頭痛・身体痛・咳嗽あるいは呼吸困難・口渇がないなどで、鼻閉・鼻水・ふるえなどをともなうことが多い
本方は表寒・表実に対する基本処方です。
悪寒・無汗・発熱があるものを目標とします。
表寒とは、感染症の初期にみられる悪寒(あるいは悪風)・頭痛・身体痛の症候をいい、表体血管の収縮・汗腺の閉塞・筋肉の緊張・ふるえなど、一連の体温の放散抑制と熱産生増大の反射によって生じる反応と考えられます。
風寒の邪が体表部(表)に侵入したための症候と考え、表寒と称しています。
表実とは、表寒の状況で無汗であり、汗腺の閉塞による熱の放散抑制が十分に行われている状況と考えられ、ふるえ・筋の緊張など熱産生反射も強く表れます。
すなわち、体の反射機構が十分に働いた抵抗力の強いことを示す状態です。
麻黄は発熱状態では発汗に働いて熱の放散をつよめ解熱します。
桂枝は皮膚血管を拡張して麻黄の発汗作用をつよめます。
古来、感染症の初期には発汗させることが有効であることが実証されており、発汗法の適用を表証として、表にある病邪が汗と共に除去されるものと考えていますが、現代的な機序は明らかではありません。
麻黄には気管支平滑筋のけいれんを緩解する作用があって咳嗽・呼吸困難をしずめ、また利尿作用により粘膜や組織の浮腫を軽減します。インフルエンザウイルス抑制作用もみとめられています。
桂枝は、知覚中枢に作用して疼痛閾値を高めて鎮痛に働くほか、唾液・胃液の分泌を促進して消化吸収をつよめます。このほか軽度の利尿作用もあります。
杏仁は祛痰・鎮咳作用により麻黄の効果を補助します。
甘草はステロイド様作用により消炎・解毒するほか、軽度の祛痰作用をもち、消化吸収の促進に働くとともに、諸薬を調和させ他薬の効果が過度になるのを抑制するとされます。
本方は発熱状態に対しては麻黄・桂枝の配合により強い発汗作用をあらわすので、適切に使用すると顕著な効果がありますが、適応を誤ると発汗過多による様々な弊害が生じ、甚だしければ悪化をまねくので注意が必要です。
また、麻黄には大脳皮質の興奮性を高める効果があり、多量に服用すると不眠をきたすことがあります。
発熱性疾患には、つよい悪寒・無汗を備えたもののみに用い、発汗過多による弊害を防ぐべきです。老人・子供・虚弱者には通常用いません。
夏期には発汗傾向がふだんからつよいので、麻黄湯による弊害もつよい恐れがあり、慎重に用いる必要があります。
発熱があり無汗であっても、微悪寒あるいは熱感・口渇・咽痛などがみられるものには使用しません。これらは表熱あるいは血虚の表証であるので、麻黄湯を用いると悪化をまねきます。
葛根湯
【組成】葛根・桂枝・麻黄・芍薬・甘草・生姜・大棗
【適応症】表寒・表実:(麻黄湯参照)で項背部のこわばりをともなうもの
本方は表寒・表実で項背部のこわばりをともなうものに対する処方です。
本方の適応する病態は、麻黄湯の適応症で表寒の程度がやや軽く、津液の消耗が少々加わったために項背部の筋肉のこわばりが生じたものと考えられています。
麻黄・桂枝は発汗・解熱に働き、麻黄は気管支平滑筋のけいれんを止めて咳嗽・呼吸困難を緩解します。
葛根はつよい解熱作用と軽度の発汗作用をもち、滋潤性によって筋肉を潤し項背部の筋緊張を緩解します。
芍薬・大棗は滋養強壮作用により体を滋潤栄養し、甘草とともに筋肉のけいれんを緩解します。
生姜は軽度の発汗作用により麻黄・桂枝・葛根を補助し、かつ消化吸収をつよめます。
本方は麻黄・桂枝・生姜の発汗作用を芍薬・大棗・甘草で抑制し、発汗過多による弊害をおさえていて、葛根は軽度の発汗と滋潤の両面の作用をもちます。
麻黄湯が発汗過多の弊害を持ち、桂枝湯が発汗力不足で有効性に乏しいことから、中間の効果をもつ本方が日本で感冒治療に好んで用いられた理由と考えられます。
また葛根が辛涼解表の効果を持つことから、表熱にもある程度適応できたことも一因と考えられます。
一般に、表寒であっても麻黄湯の適応するはげしい悪寒・無汗の状態や桂枝湯の適応する軽度の悪寒・自汗の状態はむしろ少なく、中間型が多いことも大いに関与します。
葛根湯加川芎辛夷
【組成】葛根・桂枝・麻黄・芍薬・甘草・生姜・大棗・川芎・辛夷
【適応症】表寒・表実 鼻閉・鼻炎・副鼻腔炎
麻黄の利尿作用、葛根の脳血流量改善作用、辛夷の鼻閉・鼻汁の緩解作用・川芎の排膿と頭痛緩解作用、川芎・桂枝の血管拡張作用などを利用するものと考えられます。
鼻閉・鼻汁に試用するとよいでしょう。
桂枝湯
【組成】桂枝・芍薬・甘草・生姜・大棗
【適応症】表寒・表虚 悪風※2・自汗・発熱・頭痛・身体痛・鼻閉・鼻水・くしゃみ・乾嘔※3などの症候
※2軽度の悪寒で、風にあたったり肌を露出すると寒気を感じるもの
※3吐き気を催すが何も吐けない症状
本方は表寒・表虚に対する基本処方です。
悪風・自汗のものが主目標になります。
本方の適応する表虚とは、熱の放散抑制と熱産生の生理的反射が十分に発揮されない状況で、汗腺の閉塞が不十分なため汗が漏出し(自汗)、筋緊張やふるえ反射があきらかでないため、はげしい悪寒ではなく軽度の悪寒(悪風)を生じるにとどまります。
一般にふだんから表在血管の循環が悪く汗腺の機能低下がみとめられ、免疫能の軽度の減弱があるものに感染症にともなって表虚を呈することが多くあります。
風寒の邪が表に侵入して(表寒)、衛気※4がこれに抵抗しますが、衛気が弱いために病邪を駆逐できず、また衛気の固摂作用※5がより減弱するために津液が漏出すると考えます。
それゆえ病邪を発汗によって除去する必要がありますが、営※6を保護することも重視し、軽度の発汗作用をもつ桂枝・生姜と、営を保護する芍薬・大棗を配合して本方を作ったのです。
※4体表部の防御作用
※5汗・尿・精液などの排出過多の抑制、血液の血管外への滲出抑制をする気の作用
※6血とともに脈管内を循行する気で、血を生成し全身を栄養・滋潤する
桂枝は、軽度の発汗作用をもち、体表血管を拡張して熱の放散をつよめて解熱にはたらき、鎮痛作用を持ちます。
生姜も末梢循環を促進して発汗させ、桂枝の発汗・解熱作用を補助します。
桂枝・生姜は唾液・胃液の分泌を促進して消化吸収を補助し体の抵抗力をつよめる他、軽度の利尿作用をあらわします。
生姜は制吐作用をもちます。
芍薬・大棗は滋養強壮作用によって体を栄養・滋潤し、また桂枝・生姜の発汗が過度のなるのを防止します。
甘草は消化吸収をつよめ、諸薬を調和させるほか、抗利尿作用により体液を保持します。
生姜・甘草は祛痰にもはたらきます。
芍薬・大棗・甘草は筋肉のけいれんを緩解して鎮痛します。
本方は軽度の発汗によって表寒を緩解させるので、発汗を補助する適当な手段を補助的に使用する必要があります。
悪風・自汗があっても口渇などのある表熱に相当するものには用いません。使用すると悪化をまねきます。
辛温解表剤
辛温解表剤は、熱感あるいはかすかな悪寒・頭痛・咽痛・高熱などの熱証をともなう表熱に適応するものです。
表熱は、炎症傾向がつよく汗腺閉塞も顕著ではないので、軽度の発汗作用をもつ解表剤を用います。
銀翹散
【組成】金銀花・連翹・薄荷・淡豆豉・荊芥・淡竹葉・芦根・牛蒡子・桔梗・甘草
【適応症】表熱:熱感あるいはかすかな悪寒・発熱・頭痛・咽痛・無汗あるいは汗ばむ・軽度の口渇などで、目の充血・咳嗽などをともなうことがある
本方は表熱に対する代表処方です。発熱・熱感・咽痛・口渇などが目標です。
表熱とは、炎症の初期症状で、汗腺の機能失調により熱の放散が十分おこなわれない状況と考えられます。
風熱の邪が侵入して生じた表証とされ、表寒でみられる熱の放散抑制・熱産生促進の生理的反射である汗腺閉塞・筋緊張・ふるえ反射などがほとんど生じないのが特徴で、単に炎症による熱産生の増大にともなって体温上昇があらわれると考えられます。
表熱では表寒よりも体温上昇がつよく、炎症傾向がはげしく進行も早いので注意が必要です。
薄荷は、皮膚血管拡張により発汗させて熱の放散をつよめ、消炎作用により咽痛や腫脹を軽減します。
淡豆豉は軽度の発汗作用によりこれを補助します。
牛蒡子も発散をつよめ、消炎・解熱・鎮咳・祛痰に働きます。
荊芥は体表血管を拡張して発汗をつよめ、解熱と咽痛の緩解に働きます。
以上が発汗に働く生薬ですが、表寒と異なりつよい発汗作用は必要ではなく熱の放散を補助するのが目的です。
金銀花・連翹は、消炎・解熱・抗菌・抗ウイルス作用を持ち、炎症や化膿をしずめます。
淡竹葉は解熱を、芦根は消炎・抗菌を補助し、とくに肺や気道の炎症に効果があります。
芦根には軽度の栄養・滋潤作用をもちます。
桔梗は祛痰・鎮咳・排膿作用をもち、消炎により咽痛を緩解します。
甘草は消炎・解毒・祛痰に働きます。
金銀花・連翹・牛蒡子・淡豆豉は軽度の利尿作用をもち解毒を補助します。
淡豆豉・薄荷は消化吸収を助けます。
薬剤師 宇喜多 和美
燥邪による肺への影響
秋になり、大気が乾燥すると自然界の乾燥に似た症候を示す「燥邪」による症状が出やすくなります。
五行説においても「燥」の季節である秋は五臓のなかの「肺」が最も影響を受けやすいと考えられています。
「肺」は臓器の肺のみを指すのではなく、大腸や鼻、皮膚なども含みます。
・鼻孔や口内の乾燥感
・唇のひびわれ
・のどの乾燥感と痛み
・空咳
・粘性を帯びた痰
・鼻出血、痰に血が混じる
・皮膚の乾燥
・便秘
秋になると、夏に盛んに行われていた皮膚呼吸が少なくなることからも、気管や鼻、喉に負担がかかります。
また、秋は、朝晩の冷え込みが強くなります。冷たい空気や乾燥した空気は鼻や喉の粘膜、気管支を刺激し、乾燥によって喉や気管支の潤いが少なくなることで炎症が起こりやすくなり、咳や痰、喉の痛みなどの症状が出やすくなります。
秋に旬を迎える「肺」によい食材のすすめ
梨
体を潤します。特に肺を潤して熱を下げ、痰の切れが悪いときや空咳、のどの痛みや渇き炎症など、のどの不快な症状に対応します。
かりん
咳止めや痰切りをします。熟すと香りが強くなり、咳や痰、のどの炎症への効果はこの香り成分にあります。肺を潤すので喘息にも対応します。
柿
肺を潤して乾燥による咳やのどの渇きに対応します。ビタミンCも豊富に含まれるので、風邪の予防としてもよいものになります。
渋みのもとはタンニンで、アルコールの分解を助け、また利尿作用のあるカリウムも豊富なため、二日酔いの対策にもなります。
体にこもった熱を冷まします。
ざくろ
のどの渇きや咳に効果的です。
女性ホルモン様物質を含みます。
ゆりね
肺の潤いを補い、咳やのどの渇きに対応します。
精神を落ち着かせ、不眠対策にもなります。
ぎんなん
肺機能を高めて咳を鎮めます。
収斂作用により頻尿、夜尿症にも対応します。
松の実
肺を潤して咳を鎮めます。
滋養強壮の効果があります。
れんこん
体の余分な熱を冷まして、体に潤いを与えます。
肺を潤して働きを高め、のどの渇きや咳、痰に効果的です。
だいこん
体の余分な熱を冷まして、咳、のどの痛み、痰を鎮める働きがあります。
胃腸の調子を高め、消化酵素のジアスターゼを多く含むため胃もたれや消化不良、おなかの張りなどの不快感にも対応します。
白きくらげ
体を潤す作用があり、肺やのども潤すために、のどや口の渇きや空咳に効果的です。
シロキクラゲ多糖類は大量の水分を保持する力があり、肌をみずみずしく保つ効果が期待されます。皮膚の修復、角質層の保水、メラニンの生成抑制などによる美容効果も期待されています。
その他の「肺」によいもの
ハチミツ
肺や皮膚、腸に潤いを与える働きがあり、空咳や便秘、乾燥肌の改善に効果的です。
消化吸収がよく、弱った胃腸の働きを高め、栄養価も高いので体力回復にもよいでしょう。
チンピ
みかんの皮を乾燥させた生薬です。
咳、痰を抑える他、消化不良、腹部膨満感、吐き気、食欲不振、下痢を改善します。
豚肉
体に潤いを与える働きがあり、空咳、のどの渇き、乾燥肌、便秘の緩和に対応します。
疲労回復に役立つビタミンビタミンB1が豊富です。
たまご(鶏卵)
白身の部分は特に体の渇きを抑える作用があり、肺を潤して、咳やのどの渇きを改善します。非常に栄養価が高く、貧血の改善や体力回復にも効果的です。
薬剤師 宇喜多 和美
民間薬とは、昔から経験的に使われ、民間に伝承されてきた主に一種類の生薬からなる薬のことです。家庭で治せる範囲の怪我や病気に使われてきたもので、使用方法に医学的な背景は無く、用法・用量の詳細は決まっていません。
一方、漢方薬には原典として医学書が存在し、そこには、生薬の基原、製法、用法用量などが記載されています。
漢方薬は漢方医学の理論に基づいた処方の構成がなされており、原則として二種類以上の生薬が一定の分量比で組み合わされて一つの処方を構成し、用法・用量が決まっています。
漢方医学の理論に則って使用され、臨床的知見が集積されています。
三大民間薬
ドクダミ
ジュウヤク(重薬・十薬)
【使用部位】ドクダミ科ドクダミの地上部
【作り方】
天日で1日乾燥後、日陰干しする。
かびがつきやすいので完全に乾燥したものは気密容器か紙袋に入れて乾燥した場所で保存する。
【薬効】利尿作用、強心作用、血管収縮作用、抗菌作用
【主な使用目的】利尿、緩下、解毒
ゲンノショウコ
ゲンノショウコ(現証拠)
【使用部位】フクロソウ科ゲンノショウコの地上部
【作り方】
野生または栽培の花期直前のものを抜き去り、根を除いて、葉が落ちないように陽乾(ござ、むしろなどの上に薬草を広げ、直射日光を当てて乾燥)する。
【薬効】
サギに胃内投与すると十二指腸、小腸の蠕動運動を抑制。
ラット小腸平滑筋における副交感神経およびムスカリン受容体を抑制することにより腸管収縮を抑制。
マウスでヒマシ油、塩化バリウム、ピロカルピンおよびセロトニン誘発下痢を抑制し、一部大腸蠕動運動を抑制し、止瀉作用を発現。
【主な使用目的】整腸、止瀉
センブリ
センブリ(当薬)
【使用部位】リンドウ科センブリの開花期の全草
【作り方】開花期に採取し、よく乾燥後風通しのよい場所に遮光して保存。
【薬効】胃液分泌促進、ペプシン作用を低下、唾液・胆汁・膵液分泌増加作用、血糖下降作用。
【主な使用目的】苦味健胃薬、整腸薬、育毛剤
薬剤師 宇喜多 和美
正気と邪気
漢方では、病気の発生を、正気が邪気に負けたことによるものとします。
正気とは人体の機能活動(気血水や陰陽など)、自然治癒力など生命力の全てを意味しています。
邪気とは生命力を阻害して、病気を引き起こす原因になります。
病因
漢方では、病気の原因のことを病因(びょういん)といいます。
病因は外因、内因、不内外因に分けられると考えられ、外因とは人体の外にあって病気の原因になるものであり、内因とは人体の中にあって病気の原因になるもの、不内外因とは内因でも外因でもないものをいいます。
外因には六淫(りくいん)である風邪(ふうじゃ)、寒邪(かんじゃ)、暑邪(しょじゃ)、湿邪(しつじゃ)、燥邪(そうじゃ)、火邪(かじゃ)があり、内因には七情(しちじょう)である喜(き)、怒(ど)、思(し)、憂(ゆう)、悲(ひ)、恐(きょう)、驚(きょう)があり、不内外因には飲食の不摂生、過労、過度の性行為、運動不足、外傷、虫や獣による障害、寄生虫、中毒、遺伝、などがあります。
外因
気象の状態は風(ふう)、寒(かん)、暑(しょ)、湿(しつ)、燥(そう)、火(か)という6つであらわされ、これらを六気(ろっき)といいます。
六気は植物が育つため、人や動物が生きていくためには欠かせない正常な気象現象ですが、六気が過剰・不足・季節との不相応が起こることや、人体が六気に対して著しく抵抗力をなくしたとき、六気は六淫となり、それぞれ風邪、寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪となります。
六淫は体外より人体を襲う邪気であるため、侵入口は人体と外との接点である体表面、呼吸器となります。
内因
内因には喜・怒・思・憂・悲・恐・驚の7つの感情を示した七情があります。
七情は正常な状態では、病因になるものではありません。
病因としての七情になるのは、7つの感情が過剰に反応することや、長時間持続することによります。
七情は人体の中から生まれたものなので、直接内臓に影響して病気を引き起こすことがあります。
七情は五臓と関係が深いため、ゆきすぎた七情は五臓を害して症状があらわれ、五臓に異常が発生すると七情にも変化が起こります。
薬剤師 宇喜多 和美
梅雨は、晩春から夏にかけてくもりや雨の日が多くなる期間を指します。
夏が近づくと南から暖かく湿った空気をもつ太平洋高気圧が張り出し、北にある冷たい空気をもつオホーツク海高気圧と日本付近でぶつかり、この2つの高気圧がぶつかるところに梅雨前線ができます。
梅雨の特徴は、雨が多く湿度が高くなること、雨の日の涼しい気温と蒸し暑さの両方を感じやすく、寒暖差が生じることです。
漢方では病気が起こる原因の内、身体の外にある病気の原因を外因といいます。
外因には、風邪(ふうじゃ)・寒邪(かんじゃ)・暑邪(しょじゃ)・湿邪(しつじゃ)・燥邪(そうじゃ)・火邪(かじゃ)があり、特に梅雨に問題となるのが、湿邪です。
もともと体に水分が溜まりやすいことや水分の偏在がある「水滞」の傾向のある人は特に、大気の湿度の上昇によって、梅雨に体調不良になりやすいと考えられます。
水滞とは、体液、つまり体内における“湿”が溜まりやすく、偏在しやすい体質なので、体内の“湿度が高い”のです。水滞体質は、周囲の大気、つまり体外の湿度が上昇すると、呼応して体内の湿度も高くなり、それにより体調不良になりやすいと考えられます。
体調不良の症状の出現しやすいものとして、胃腸症状、浮腫、重だるさ、倦怠感、頭重感、めまい、関節痛、湿疹、などがあります。
胃腸は湿気により、最も影響を受けやすいところです。梅雨には食欲がでない、もたれるなどの胃腸症状がより出やすくなります。
自律神経のバランスの乱れが、寒暖差が生じやすい時期故に起こりやすくなることもあります。
それにより、不眠、疲れ、眠気、気分の落ち込み・不安感、などの症状も出やすくなることがあります。
梅雨の生活養生
【湿邪対策として】
・湿気がこもらないように、雨や汗で濡れた服や靴下はすぐ替えること。
・除湿機や乾燥機を使用して屋内の湿度管理をすること。
・水分を必要以上に摂り過ぎないようにすること。
・水分摂取は冷たいものは控えて、一気に大量に摂るのではなく、少量をこまめに摂るようにすること。
・食事では、冷たいもの、甘いもの、生もの、油っぽいもの、味の濃いもの、は控えるようにすること。
・少し汗ばむ程度の運動や入浴をすること。
【自律神経のバランスを整える対策として】
・毎日同じ時間に起床、睡眠、食事などをとるよう心がけ、生活リズムを整え、規則正しい生活を送ること。
・朝日を浴びること。
・深くゆっくり呼吸すること。
・エアコンにより室内の温度を下げ過ぎず、屋外と室内の温度差を大きくしないこと。
・寝る前のスマートフォンやパソコンの使用を控えること。
・衣服でこまめに体温調整すること。
梅雨の食養生
【水滞対策の食材】
・あずき・緑豆・とうもろこし・きゅうり・トマト・冬瓜・えんどうまめ・緑豆もやし・スイカ・梨・アサリ・シジミ・こんぶ・海苔・ワカメ・はまぐり・クラゲ・ハトムギ・鴨肉・鶏肉 など
この内、赤字の食材は身体の熱を冷ます傾向にあるので、身体を温める生姜や胡椒などを添えて、常温または火を通して摂るようにしましょう。
【胃腸対策の食材】
かぼちゃ、やまのいも、じゃがいも、さといも、さつまいも、しいたけ、まいたけ、しめじ、マッシュルーム、えのき、大豆・枝豆、えんどう豆・グリーンピース、そら豆、さやいんげん、玄米、もち米、きび、など
薬剤師 宇喜多 和美
六病位とは、急性熱性疾患について論じた医学書『傷寒論』に記載された病態概念であり、病気の進行と症状を時間経過で捉えたものです。
病の進行には6つのステージ(病期)があり、時間的推移の順に太陽病(たいようびょう)、少陽病(しょうようびょう)、陽明病(ようめいびょう)、太陰病(たいいんびょう)、少陰病(しょういんびょう)、厥陰病(けっちんびょう)となり、これを六病位と言います。
3つの陽証病期(熱が中心となるもの)と3つの陰証病期(裏の寒が中心となるもの)に分けられることから、「三陰三陽」とも呼ばれます。
傷寒論とは、後漢の200年頃、張仲景(ちょうちゅうけい)が著した医学書とされています。
中国医学の三大古典と呼ばれる「黄帝内経」「神農本草経」「傷寒雑病論」のうち、「傷寒雑病論」は生薬を組み合わせた処方を用いて様々な病態に対応する薬物治療書です。
「傷寒雑病論」は後に主に急性疾患の治療について記された「傷寒論」と、主に慢性疾患の治療について記された「金匱要略」の2種類の書に分かれました。
傷寒論は急性熱性疾患(感染症)の治療について記載されています。
表裏とは、病気が侵入した身体の位置をあらわしたものです。
病気は最初表面(表)から入って、病状が重くなるに従って内部奥深く(裏)まで進行すると考えられています。
表(ひょう)とは、体の表面をいい、現代医学的にいえば、皮膚、皮下組織、筋肉などをさします。
病気が主として表にあるものを表証といいます。
裏(り)とは、体の深部をいい、現代医学的には、消化管、腸間膜などをさします。
病気が主として裏にあるものを裏証といいます。
表と裏の中間を半表半裏(はんぴょうはんり)といい、現代医学的には、横隔膜付近をさします。
病気が主として半表半裏にあるものを半表半裏証といいます。
陽証病期:熱が中心となる病態、基本的に発熱している状態、熱証がみられる。
太陽病
風邪のひきはじめなどで、熱が体の表面にある病期。症状が体表部にとどまっている状態。表証。
発熱・悪寒が同時にある。頭痛、咽頭痛、鼻汁、関節痛・筋肉痛、項背(首の後ろ〜背中)のこわばりなどを伴う。
小陽病
風邪が進行し、食べ物の味がまずく、食欲が低下した状態。
熱が体の表面と深部の間にある病期。半表半裏証。
口の苦味・粘り、食欲不振、吐き気、発熱と悪寒が交互に行き来する(往来寒熱)、胸脇苦満(脇腹からみぞおちにかけての抵抗感や張った感じ)、めまいなどを伴う。
陽明病
病変が完全に体の深部に移り、高熱が続く状態。熱が消化管などの体の深部にある病期。裏証。強い発熱、発汗、口渇、腹部の膨満感、便秘などを伴う。
意識がはっきりしないときも出てくる。
陽証病期:寒が中心となる病態、基本的に冷えている状態、寒証がみられる。
太陰病
消化管を中心に冷えて機能が衰え、気力と体力が低下した状態。体の深部に寒がある病期。下痢、腹痛、嘔吐、食欲不振、全身倦怠感などを伴い、ぐったりしている。
少陰病
さまざまな臓腑の機能がより低下し、倦怠感が強まり、元気がなく、顔色が悪く、すぐに横になる状態。体の深部に寒がある病期。
強い倦怠感、気力低下、四肢冷感、未消化の下痢、悪寒のみを訴え熱感がないが、寒が極まり熱のような病状を示す真寒仮熱(しんかんかねつ)などを伴う。
厥陰病
冷えが身体深部まで及び、臓腑の機能が著しく低下し、重篤な病状に陥った状態。体の更に深部に寒がある病期。
重篤な意識レベルの低下、体温調節障害、呼吸困難、持続性下痢などが現れる。
薬剤師 宇喜多 和美
四季にはそれぞれの適切な過ごし方があり、今の季節をいかに過ごすかが、次の季節を健やかに過ごせるかどうかにもつながります。
夏はどのように過ごすのがよいのか、夏の養生についてお伝えします。
1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つ、約15日ずつに分けたものが二十四節気であり、今でも春分、夏至、秋分、冬至など、季節を表す言葉として用いられています。
二十四節気はその年によって1日程度前後することがあります。
その中で夏とは立夏(5/5頃)、小満(5/21頃)、芒種(6/5頃)、夏至(6/21頃)、小暑(7/7頃)、大暑(7/23頃)から秋に入る立秋(8/7頃)までをいいます。
夏の生活養生
東洋医学の基礎となっている医学書である「黄帝内経」(こうていだいけい)では、夏の3ヵ月を蕃秀(ばんしゅう)と言い、蕃秀とは万物が繁栄し、華やかで美しくなることをいいます。
「夏は草木が成長し、万物が茂り花咲き乱れ、陽気が最高潮に達する季節。夏には、少しは夜更かしをしてもよいが、朝は早く起き、夏の日の長さや暑さを嫌がらず、適度に運動して、精神的にも気分を発散させることが大切。」と述べられています。
・夜更かしをしても良いが、朝は早く起きること。
長くなった日照時間に出来るだけ身体をさらすことが身体の代謝を活発にするとされているためです。
・夏の暑さを嫌がることなく適度な運動をすることで代謝を促進させることも大切、かつ暑さや湿気から身を守ることも大切。
夏は一年中で最も体力を消耗する季節となります。
夏は汗を多くかきますが、外の温度が高いのでいくら汗をかいても体温の放散は進まず、体力が消耗してしまいます。
実は汗をかき過ぎると体の水分だけでなく「気」も消耗します。
夏は活動する季節ではあるのですが、汗をかき過ぎる運動や行動は気を消耗することも念頭に置いておきましょう。
昼寝(仮眠)は消耗した気を回復させるのに有効です。
また、収斂作用のある酸味を摂ることで汗の出すぎを抑えることもできます。
水分をしっかり補給することも大切ですが、冷えたものを一度に大量に飲むことは避け、常温程度のものをこまめにゆっくり少しずつ摂るようにしましょう。
過剰に冷たい飲み物を摂取することは胃腸に負担をかけ、消化や栄養吸収の低下をまねき、胃腸虚弱な状態を作ってしまします。
夏は五臓の「心」に負担のかかりやすい時期です。
心とは臓器としての心臓の働きも含み、大量の発汗に伴い体の水分が失われてしまうと血液が凝縮し、心臓にも大きな負担がかかります。
ただ、暑さから逃れるために、むやみに涼を求めて冷房の効いた部屋で過ごし、汗をかかない生活をすることもよくありません。
・暑さでイライラしやすい夏ですが、感情を穏やかに、精神的な安定を保つ。
夏に負担がかかりやすい五臓は「心」であり、「心」は暑さを苦手とします。
「心」のはたらきのひとつに精神・意識を統括するという役割があります。気持ちにゆとりを持つことは「心」の養生になります。
早起きして、涼しい早朝のうちに行動することを心掛けてみてはいかがでしょうか?
夏のトラブル
梅雨時期は雨が多く湿度が上がるため、水の滞りが起こりやすくなり、その影響が全身各所に出てきます。
頭痛・むくみ・めまい・関節症状など
特に多湿を嫌う五臓は「脾」であり、「脾」に負担がかかることで消化器症状が出やすくなります。
また、夏の暑さに対して冷たい水を過剰に飲んでしまうと胃が冷やされてしまうことからも消化吸収の働きをコントロールする「脾」の働きが低下してしまいます。
胃もたれ・食欲不振・吐き気・下痢など
「脾」は、飲食物を消化・吸収して栄養物質に変化させています。
「脾」への負担により必要な栄養を摂れなくなると、「気」や「血」の不足も生じやすくなります。
「気血」の不足により、また過度な発汗により気が消耗することからも疲れやだるさが起こりやすくなります。
「血」の不足により精神的に不安定になったり不眠が生じたりします。
更に、暑い夏は夜になっても気温が下がらず、睡眠の妨げになります。
部屋と屋外との温度が冷房のため大きな寒暖差を起こすことになり、体の温度調節機能が追い付かず自律神経のバランスが崩れることで不調を起こす人も増えます。
冷房の温度は高めに設定しておくことが大切です。
夏の食養生
暑さによりこもった熱を冷ますもの、水を巡らせて水分代謝を良くするものを取り入れるとよいでしょう。
きゅうり・トマト・ナス・苦瓜・おくら・冬瓜・ズッキーニ・レタス・スイカ・メロン・パイナップルなど
旬のものを摂ることが養生になります。
消耗した気を補う食材を取り入れるのもよいでしょう。
かぼちゃ、キャベツ、アスパラガス、ブロッコリー、やまのいも、じゃがいも、さといも、さつまいも、しいたけ、まいたけ、アボカド、枝豆、えんどう豆、グリーンピース、そら豆、さやいんげん、苺、さくらんぼ、バナナ、玄米、もち米、きび、あわ、大麦、小麦、蕎麦、大豆、栗、鰻、海老、鮭、帆立貝、はちみつ、鶏肉、豚肉、牛肉、鴨肉、羊肉
ただし、食べすぎには注意しましょう。
薬剤師 宇喜多 和美
Q.漢方薬の剤形とそれぞれの特徴について教えてください
医療用漢方製剤としてエキス剤が普及しており一番馴染みがあるかと思いますが、漢方薬の剤形として、他には湯剤、散剤、丸剤などがあります。
・湯剤
土瓶などに生薬と水を入れ加熱し、生薬の成分を抽出する煎じ薬です。
古来、伝統的な漢方薬の基本剤形になり、剤形の中では一番効果的だと考えられています。
日持ちがしないものなので、1日分をその日に作り、1回約30~50分かけて煎じるなど服用するまでに至る工程に時間を要するものになります。
・散剤
生薬を細かく砕いて粉末状(原末)にして、組み合わせたものです。
芳香のある揮発性の有効成分が煎じることにより損なわれる可能性のある処方などがあえて散剤で作られることもあります。
散剤は片栗粉や小麦粉のようにふわふわして舞いやすいので扱いづらいという点、エキス剤に比べると生薬の味を感じやすく人によっては飲みづらさを感じる場合もありますが、生薬そのものを摂取することになるので、効果的に優れていると考えられています。
・エキス剤
生薬を煎じたものから水分を蒸発させ、賦形剤などを加えて固形・顆粒状にし、錠剤、顆粒剤、カプセル剤に加工されます。目の細かい粉状に加工されたものもあります。
湿気やすく、顆粒剤は特に湿気ることにより固化して飲みづらくなってしまうという面もありますが、扱いやすさ、携帯しやすさ、飲みやすさがあります。
特に医療用漢方製剤としては一番普及している剤形になります。
・丸剤
生薬を粉末にしたものに蜂蜜等を加えて丸く固めたものです。
他の剤形よりも長期保存ができ、また体内でゆっくりと時間をかけ溶けるため、効き目が緩やかで、持続性もあるといわれています。
Q.漢方薬のおすすめの剤形を教えてください
効き目が優れている点で選びますと煎じ薬になりますが、煎じる時間がとれないなどで続けて飲むことが出来ない場合も考えられます。
漢方薬は長期的な服用になるケースが多いので、自分ではどの剤形が続けやすいか、ご自身のライフスタイルに合わせて続けやすい剤形を優先して選ぶことが大切だと考えます。
Q.漢方薬の飲み方を教えてください
煎じ薬は通常1日量を2~3回に分けて飲み、その他の剤形は通常1日2~3回水又は白湯、またはお湯で服用します。
顆粒剤は溶けやすいので、お湯に溶かして服用する場合もあります。
漢方薬は空腹時に飲むことが効果的だとされており、胃の中に何も無い状態での服用、食前、食間服用が基本になります。
食前とは食事の約30前、食間とは食後約2時間後をさします。
ただ、決められた1日量をしっかり飲むことが大切になりますので、食前に飲み忘れた場合は食後服用でもかまいません。生活リズムの中で食前や食間服用が難しい場合は毎回食後服用でも問題はありません。
自分が飲むことができるタイミングを優先することが大切です。
また、漢方薬の種類、その方の体質によっては胃腸への負担を軽くするためにあえて食後服用と指示される場合もあります。
Q.漢方薬の種類はどれくらいありますか
現在日本で一般用漢方製剤として承認基準が制定されているものは294処方、医療保険の適用のある処方が148処方あります。
一般用漢方製剤
昭和49年一般用医薬品として使用可能な漢方処方として、210処方が規定される。
平成20年9月30日 新基準が制定され、213処方となる。
平成22年4月1日 基準の改正(新処方の23処方追加)
平成23年4月15日 基準の改正(新処方の27処方追加)
平成24年8月30日 基準の改正により、294処方となる。(新処方の31処方追加)
医療用漢方処方
148処方(エキス製剤147+軟膏1)
薬剤師 宇喜多 和美
四季にはそれぞれの適切な過ごし方があり、今の季節をいかに過ごすかが、次の季節を健やかに過ごせるかどうかにもつながります。
春はどのように過ごすのがよいのか、春の養生についてお伝えします。
1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つ、約15日ずつに分けたものが二十四節気であり、今でも春分、夏至、秋分、冬至など、季節を表す言葉として用いられています。
二十四節気はその年によって1日程度前後することがあります。
その中で春とは立春(2/4頃)、雨水(2/19頃)、啓蟄(3/6頃)、春分(3/21頃)、清明(4/5頃)、穀雨(4/20頃)から夏に入る立夏(5/5頃)までをいいます。
春の生活養生
春は冬の間隠れて静かにしていた全てのものが、芽を出し活動的になり始める時期です。
東洋医学の基礎となっている医学書である「黄帝内経」(こうていだいけい)では、春の3ヵ月を発陳(はっちん)と言い、「この季節には、少し遅く寝て少し早く起き、楽な格好で外に出てゆったりと歩き、体をのびやかにし、春に芽生えた万物と同じように、心身ともに活き活きと、活動的な気持ち、あるいは活動するのがいい。これが春の季節に調和した養生法である。」と述べられています。
・夜更かしをしても良いが、朝は早めに起きること。
日の出とともに大気中に自然の「陽気」(体を温め、体を活発に動かすためのエネルギー)が増えるため、身体をそれに合わせるために、朝は早めに起きることが大切です。
陽気を体内に取り入れるために、朝日を浴びて散歩するのが良いでしょう。
睡眠時間は減りますが、多少夜更かしをしてもかまいません。
・冬の間に留まっていた気を身体中に巡らせること。
束縛をせずのびやかな状態にするため、下着や衣服も締め付けない、ゆったりとしたものを選びましょう。
髪をきつく縛ることを避けるなど、身に付けるものによってからだを締め付けないようにしましょう。
意欲をおこしのびのびとさせ、今までしまい込んでいた力を引き出すように、いろいろなものに目を向けチャレンジしてみましょう。
・下半身の冷えには注意
春になって日中は暖かくても地面はまだ冷たく、足元は冷えやすくなります。上半身は薄着でも下半身は温めて冷やさないようにしましょう。
暖かくなったからといって急に薄着になると寒の戻りがあった時血管が収縮して血行が阻害されて体内の機能が落ちてしまいます。着るものは少しずつ減らしましょう。
春のトラブル
春になると、鎮静化していた細胞も活動的になり、新陳代謝が活発になり、内臓の働きも活性化し、脂肪や老廃物を排泄して段々と冬の体から春の体へと変化していくため、解毒・排毒の役割を担う肝臓への負担が大きくなります。
五行説でいうと春には五臓の肝が亢進しやすくなるといわれています。
肝は肝臓の機能を含みます。
また、春は、進学、入社、引っ越しなど新しい環境が増える時期でもあります。そのため、人は環境変化のストレスを受けることが多くなります。
ストレスにより体内を流れる気は停滞しやすくなり、それによって気分の落ち込みやイライラ、怒りっぽい、情緒の起伏が激しい、ゲップやおなら、おなかの張り、喉の痞え、便秘と下痢を繰り返すなどの気滞症状が起きやすくなります。
肝はストレスによる影響を特に受けやすく、肝は気の流れを調整して、感情や自律神経をコントロールする役割を担っているので、より気滞症状が出やすい状態になります。
このように肝への負担が大きくなると、感情や自律神経のバランスの乱れが起こりやすくなり、また肝は血液を貯蔵し、血液の流れを調節する役割も担っているので、のぼせ、血圧上昇、目や鼻の粘膜の充血なども起こりやすくなります。
肝は、気の流れを調整して、感情や自律神経のコントロール、血液の貯蔵・血液の流れの調節、筋肉や関節の運動の調整という役割を担っています。
このように肝への負担が大きくなり気の流れをコントロールできなくなると、陽気は上へ上へと昇る性質があるので、身体の上部の症状が出やすくなります。
イライラして怒りっぽい、目の不調(ぼやけ、かすみ、眼精疲労)、めまい、耳鳴り、頭痛、のぼせ、不眠、血圧上昇、目や鼻の粘膜の充血、胸脇部の張り、筋肉のこわばり、肩こりなどが出やすい症状として挙げられます。
万物の芽吹く春は、一年の中で気が一番旺盛になり躍動します。
環境の変化でストレスが増えること、肝への負担により、気のコントロールが出来なくなることもあり、更に気の流れが乱れやすくなります。
気の流れの乱れにより、自律神経のバランスの乱れが起こります。
また、春は昼と夜の寒暖差が大きくなり、更に自律神経が乱れやすくなる傾向にあります。
自律神経はホルモンと密接な関係があります。
自律神経のバランスの乱れによりホルモンの分泌に変化があらわれ、その変化の一つとして皮脂が過剰に分泌されやすくなり肌が荒れやすく、ニキビも悪化しやすくなることがあります。
また、春は風が強く花粉やほこりが舞いやすく、紫外線が段々に強くなることから肌への負担が増すことも、春に肌症状が悪化する原因のひとつと考えられます。
春はよく風が吹きます。これが人体に悪影響を与えると「風邪(ふうじゃ)」という春に最も多い病気の原因となります。
風邪は百病の長と言われ、黄帝内経には風邪による病気や症状は多種多様だと書かれています。
風邪は様々な病気を引き起こし、風邪は湿と結合して「風湿」、熱と結合して「風熱」、乾燥と結合して「風燥」、寒と結合して「風寒」となるなど、病気に進行が早く変化しやすいことが特徴で、全身のあちこちに症状が出やすくなります。
まず風邪が身体に侵入すると、頭痛や鼻水、発熱、のどの痛み、咳、目のかゆみ、発疹や皮膚の痒みなど身体の上部や体表部に症状が現れやすくなります。
風邪が体内に入り込んで重大な病気を引き起こさないようにすることが重要な課題です。
風邪症状が出た際はできるだけ早く対処し風邪を追い出すことが大切です。
・肝への負担が大きくなる
・気滞症状が出やすくなる
・身体の上部の症状が出やすくなる
・自律神経のバランスの乱れが起こりやすくなる
・肌症状が悪化しやすくなる
・「風邪」を防ぐ
春の食養生
春は肝への負担が大きくなる季節ですので、酢、レモンなどの柑橘系の果物、梅干しなどの「酸味」は肝の働きを整えます。
しかし、酸味は収斂作用があり、摂取しすぎると春に発散すべきところを抑制してしまう面もあります。
消化器系が弱い場合も、酸味は胃腸に負担となることもあるので注意が必要です。
酸味は有効であると同時に、摂りすぎはよくないこと、場合によっては控えるようにした方がよいこともあります。
冬から春にかけて植物の多くは根に集中させた養分から芽を出し、茎、葉を成長させます。春の養生食としては、その生長点に当たる芽、葉、茎が多くあります。
春野菜には苦みがあるものが多いですが、この苦み成分には、体内の老廃物や毒素を排出してくれる働きがあります。
よもぎ、ふきのとう、ふき、タラの芽、うど、こごみ、わらび、うるい、ぜんまい、つくし、行者にんにくなどの山菜や、タケノコ、新玉ねぎ、春キャベツ、アスパラガス、菜の花、三つ葉、セロリ、クレソンなど旬のものを取り入れるようにしましょう。
薬剤師 宇喜多 和美
臓腑とは陰陽五行説を応用して、身体のいろいろな機能を系統立ててとらえたもので、5つの臓と6つの腑(五臓六腑)があります。
「五臓」は肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)から成り、「六腑」は胆(たん)・小腸(しょうちょう)・胃(い)・大腸(大腸)・膀胱(ぼうこう)・三焦(さんしょう)から成ります。
「五臓と六腑」は単独ではなくお互いに助け合い、コントロールしあい、密接に関係しあいながら機能しています。
「五臓と六腑」は「陰陽(いんよう)」「表裏(ひょうり)」の関係にあります。
表裏とは、「五臓と六腑」は経絡(けいらく)によるつながりがあり、例えば一方の五臓が弱くなると対になる六腑の機能も弱くなるということが起こります。
五行説と臓腑
五臓六腑から三焦を除いた五臓と五腑を五行にあてはめ、五臓の肝・心・脾・肺・腎と、五腑の胆・小腸・胃・大腸・膀胱のそれぞれが五行、木・火・土・金・水にあてはまります。
五行説を用いた五臓の相互関係は下図のようになり、肝→心→脾→肺→腎(→肝にもどる)の順番で助け合っています。これを相生(そうせい)関係といいます。
親子関係であり、肝が親で心が子、心が親で肺が子、というように親が子を助け育て、子によって親も育てられています。例えば親の調子が悪くなると子の面倒が見られなくなり、子の調子が悪くなる、というように影響しあっています。
これに対し、肝→脾→腎→心→肺(→肝にもどる)というように抑制しています。これを相克(そうこく)関係といいます。
例えば、ストレスで胃が痛い、という症状はストレスと関係の深い肝に負担がかかり、消化器と関係の深い脾が攻撃されてしまい起こった状態です。
このように、五臓が関係しバランスをとることで、私たちの体は心身ともに健康状態を維持しているとされます。
五臓
五臓の主な機能は以下の通りになります。
肝:気の流れを調整して、感情や自律神経をコントロールする。
血液を貯蔵し、血液の流れを調節する。
筋肉や関節の運動を調整する。
ストレスによる影響を特に受けやすい。
心:五臓の中で最も重要な臓であり、五臓六腑を統率する。
精神・意識をコントロールする。
血液循環を支配している。
脾:飲食物の消化吸収を管理し、吸収した栄養物を気血水に変えて全身に供給する。
消化管内の水分代謝を調節する。
全身の血液の機能を統率する。コントロールできないとき、血液が血管の外に流れ出る現象が起き、いろいろな出血症状が引き起こされる。
後天の本(飲食物の消化吸収によって、生命エネルギーを支えていく)といわれる臓である。
肺:呼吸をおこない、気を生成し、気を体内に分布させる。
水分代謝を調節し、余分な水は汗や尿として体外に排出させる。
肺の作用によって気が皮膚に送られ、皮膚を保護し、外気温に対して温度調節を行い、外邪の侵入を阻止する免疫機能に関係する。
腎:生命力を貯蔵する。
成長・発育・生殖に関わる。
水分代謝を調整し、余分な水は尿として体外に排出させ、体内の正常な水分バランスを維持する。
先天の本(生まれ持った生命エネルギーを保持している)といわれる臓である。
六腑
六腑の主な機能は以下の通りになります。
胆 :胆汁の貯蔵と排泄
決断や勇気など精神活動に影響する
小腸:飲食物のうち必要な分をよりわけて吸収する。
水分を吸収する。
胃:飲食物を最初に受け入れ、胃でドロドロにしたあと小腸・大腸へと運ぶ。
大腸:小腸で消化吸収されたものの水分を吸収し不要なものは糞便として排泄させる。
膀胱:余分な水分を貯めて、尿として排泄する。
三焦:具体的な形は無いが、機能のある腑。
上から下への水の通り道。
上焦・中焦・下焦の3つに分けられる。
薬剤師 宇喜多 和美
四季にはそれぞれの適切な過ごし方があります。
今の季節をいかに過ごすかが、次の季節を健やかに過ごせるかどうかにもつながります。
今回は、冬はどのように過ごすのがよいのか、冬の養生についてお伝えいたします。
1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つ、約15日ずつに分けたものが二十四節気であり、今でも春分、夏至、秋分、冬至など、季節を表す言葉として用いられています。
二十四節気はその年によって1日程度前後することがあります。
その中で冬とは立冬(11/7頃)、小雪(11/22頃)、大雪(12/7頃)、冬至(12/22頃)、小寒(1/5頃)、大寒(1/20頃)から春に入る立春(2/4頃)までをいいます。
◆冬の生活養生
東洋医学の基礎となっている医学書である「黄帝内経」(こうていだいけい)では、冬は草木が枯れて枯れ落ち、穀物は倉(蔵)の中にしまい込まれ、動物は冬籠りをするように、すべてが閉塞して陽気(エネルギー)を外に出さない季節とし、
「この季節には早く眠り、日の出に合わせてややゆっくりと起き、心静かに過ごし、寒冷を避け温かく保ち、また、汗をかいて陽気を失われないようにする。」と述べられています。
・必ず早く寝、朝は必ず日がさすのを待ってから起きましょう。
・心穏やかに静かに過ごしましょう。
・やがてやってくる春に向けて着々とエネルギーを蓄える時期で、寒さに負けない体力作りをするため、消耗するような運動は控えましょう。
・冷えから身を守りましょう。
・暖房が強すぎるなどして汗をかくとともに貯えていた気を消耗してしまうので、発汗に注意しましょう。
・身体を温めエネルギーを蓄える食事を心がけましょう。
◆冬の食養生
五行説に基づいて、冬は五臓のうち「腎」と関係性が強い時期として考えられています。
腎は生まれたときから備わっている生命エネルギー(先天の気)の貯蔵場所とされています。
腎は冬の間のエネルギーを維持し、活動が活発になる春のためにエネルギーの備蓄を行っています。
エネルギーを蓄えるため「腎」の機能を高める食品を摂ることがポイントです。
腎の機能を高める食品のキーワードは「黒いもの」「ぬるぬるしたもの」になります。
黒豆、黒米、黒ごま、黒きくらげ、昆布、海苔、ひじき、もずく、わかめ、山芋、いか、帆立、うなぎ、明日葉 など
体を冷やさないよう体を温める食品も積極的に取り入れるのがよいですが、香辛料により発汗が促されるので、摂りすぎに注意しましょう。
生姜、ニンニク、唐辛子、ニラ、シナモン、山椒、胡椒 など
ぬるぬる・ネバネバの成分
ムチン、ペクチン、アルギン酸などがあります。
働きとして…
・粘膜を保護
ムチンは体内のあらゆる器官の粘膜を覆う表面を保護する成分です。
胃腸炎の予防や回復に役立ちます。
鼻やのどの粘膜を潤し、風邪やインフルエンザなどを予防します。
・消化を助ける
ムチンにはタンパク質分解酵素も含まれます。
タンパク質の消化吸収を助けます。
・腸を整え、免疫力に働く
アルギン酸、ペクチンは水溶性の食物繊維のひとつです。
腸内の善玉菌を増やして便秘を予防します。
血中コレステロールを下げる働きもあります。
ムチン…長芋、山芋、レンコン、なめこ、納豆
ムチン・ペクチン…オクラ、モロヘイヤ、ツルムラサキ
アルギン酸…わかめ、昆布、めかぶ、もずく
◆冬のトラブル
冬は腎と関係性が強い時期として考えられていますが、腎は成長や発育に関わり、骨や腰とも密接に関係しているとされています。
この腎の働きが衰えると、腰や膝などの運動器のトラブルが起こりやすくなります。
腎は水分調節とも深く関係しています。
冬は皮膚がかたく収縮するので、皮膚からは水分が排出されにくくなり、体内の不要な水分のほとんどは腎と膀胱の働きによって尿として排出されます。
腎への負担が大きくなるため、頻尿、膀胱炎などの泌尿器のトラブルが多くなります。
季節によって身体の負担になりやすいところを意識して過ごすことも養生につながり大切だと考えます。
薬剤師 宇喜多 和美
五行説(ごぎょうせつ)とは中国古来の世界観のひとつであり、自然界のあらゆるものは「木」「火」「土」「金」「水」(もっかどごんすい)の5つの要素に分類でき、これらは互いに助けて促進し合い、抑制し合うことで、自然界のバランスを保っているという考え方です。
助けて促進する関係を相生(そうせい)、抑制する関係を相克(そうかつ)といいます。
相生(助けて促進する関係)
「木をこすり合わせると火がおき、火によって焼かれた後には灰が残り、灰は土になり、土から鉱物(金)が生まれ、鉱脈から水が湧き出て、水を得てはじめて木は成長できる」
相克(抑制する関係)
「木は土の養分を吸収して成長し、土は土手となって水をせき止め、水は火を消し、火は金(金属)を溶かし、金は斧や鋸となって木を切る」
五行の特性
木は成長してゆく樹木のように、曲がったり真っすぐ伸びたりしながら上へ外へと広がり、束縛や自由にできない環境を拒むことから、成長発展、のびやか、円滑、曲げ伸ばしといった性質を持ちます。
火は、炎は上に向き、熱や光を発し、空気の上昇や流動を起こすことから、炎上、発熱、立ち上がる、といった性質を持ちます。
土は農作物を育てる大地のように何かを生み出し、万物を受け入れて納め、それは地中で変化して大地を豊かにし、万物の養育のもとになることから、養育、受納、変化する性質を持ちます。
金は金属の特性として熱伝導がよいために清涼感があり、汚れにくく汚れを落としやすいために清潔感があり、収斂性があり、重厚感があり、任意の形に成形することができることから、清涼、清潔、収斂、粛静(ひっそりと静か)、変革、といった性質を持ちます。
水は液体であり上から下に流れ、物を湿らせて潤し、火を消し、性質は寒であり冷やし、下行、寒湿、滋潤の性質を持ちます。
五行色体表
人もまた自然界の一部と捉え、人体の働きを五行説にあてはめて考えます。五行説に基づいて、自然界と人体を五行に分類し、表にしたものが五行色体表です。
五季…病気の出やすい季節
五方…病気の出やすい方角
五悪…病因となる外気
五色…患者の肌の色
五味…五臓の好む味
五臓…心包を加えて六臓と呼ぶこともある
五腑…三焦を加えて六腑となる
五志…感情の分類
五香…病人の体臭や口臭
五根…関係深い感覚器官
五支…五臓の変調が現れる部位
五体…五臓との関連部位
五声…関連する音声
五液…五臓の分泌液
五労…病みやすくする動作
五変…関連する症状
※1面色…顔色
※2肌肉…真皮と筋肉
※3皮毛…表面の皮膚と産毛
※4臥(が)…横になって寝る
薬剤師 宇喜多 和美
四季にはそれぞれの適切な過ごし方があります。
今の季節をいかに過ごすかが、次の季節を健やかに過ごせるかどうかにもつながります。
今回は、秋はどのように過ごすのがよいのか、秋の養生についてお伝えいたします。
二十四節気(にじゅうしせっき)
二十四節気とは1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つ、約15日ずつに分けたもので、今でも春分、夏至、秋分、冬至など、季節を表す言葉として用いられています。
二十四節気はその年によって1日程度前後することがあります。
その中で秋とは立秋(8/8頃)、処暑(8/23頃)、白露(9/8頃)、秋分(9/23頃)、寒露(10/8頃)、霜降(10/24頃)から冬に入る立冬(11/7頃)までをいいます。
秋の養生について
秋は気候がだんだんと寒くなって、日照時間が短くなります。
減っていく日照時間を有効に活用するためにも、早寝早起きを心がけましょう。
秋は身体にとっても収穫の季節で、十分に休息をとり、夏の間疲れた体を癒し、消耗した体力を養うことが大切な時期です。
葉が色づいて落ちるため、人々は心の中で物寂しさを感じ、情緒が不安定に、感傷的になりやすく、憂鬱な気持ちになる傾向があります。
心静かに、気持ちをできるだけ平穏に保ち、心配事や悲しみで感傷的にならないように心がけることが大切です。
秋は気候の変化が大きい季節です。
初秋はまだ暑さや湿気が残り、中秋になると空気が乾燥し、晩秋には寒さを感じるようになります。
徐々に寒さに慣れていくことが大切で、慌てて厚着をしないように、まだ寒くなりきらないうちから厚着をすることは避けましょう。
あまり早く厚着をすると、体内に熱を発生させて汗をかくようになり、水を消耗させて気も排出してしまいます。
秋は天気も激しく変わりますので、急に気温が下がった時や雨の時などはこまめに衣服の調整をするようにしましょう。
秋になると気温が下がり始め、湿度が低くなり、空気が乾燥してきます。
五行(※1)の考え方では秋(※2)は肺(※3)に対応しており、乾燥した気候は肺に負担をかけます。
夏は発汗量が多く、からだを潤す水も消耗してしまう傾向にあるため、秋になると乾燥による不調が起こりやすいとも考えられています。
特に鼻、喉、気管支、肺などの呼吸器系の不調がよく起こり、鼻の乾き、喉の痛み、咳などが出やすくなります。
五行の考えでは肺は皮膚と密接な関係があるとされていることもあり、肌が乾燥して荒れてしまいやすい時期でもあります。
(※1)万物は「木・火・土・金・水」の5つの元素から成り立つとする考え方
(※2)季節を5つに分けたものが五季「春・夏・長夏・秋・冬」
(※3)人もまた自然界の一部と捉え、人体の働きを五行にあてはめ、5つに分けたものが五臓「肝・心・脾・肺・腎」
秋の食養生としては潤して乾燥を防ぎ、肺を助けるものがよいと考えられ、白きくらげ、梨、白胡麻、ゆり根、大根、山芋、蓮根、蜂蜜などがあり、色の白い食材が多い特徴があります。
気を消耗して冬に備えられなくなるため、秋は過度な運動は控えるようにしましょう。
秋の養生まとめ
・早寝早起き
・気持ちを平穏に保つ
・慌てて厚着をせず、こまめに衣服を調整する
・乾燥から呼吸器、皮膚を守る
・色の白い食材
・過度な運動は控える
薬剤師 宇喜多 和美
基本的な人体の構成成分を「気血水」と考えますが、気を陽に、血・水を陰に分けて考えます。気は機能的なものであり、血・水は器質的なものになります。
陽は身体をあたため、陰は冷やす働きをするように、身体の熱寒も陰陽のバランスが関係しています。
陰陽の失調と現れる症状
陽虚(ようきょ)
気の不調のひとつに気虚がありますが、陽虚(ようきょ)は気虚が更に進んで、特に身体を温める働きが落ちている状態です。
現れる症状としては・寒がり・強い冷え・むくみ・頻尿・水様性の下痢、などがあります。
養生としては、季節を問わず身体を冷やさず温めることが大切で、冷たいもの、身体を冷やす食材の摂りすぎに注意し、温かいもの、温める食材を積極的に取り入れることが食養生になります。
温める食材…生姜、長ネギ、ニラ、玉ねぎ、紫蘇、にんにく、栗、かぼちゃ、シナモン、山椒、胡椒、唐辛子、納豆、羊肉、鶏肉、エビ、鮭、黒砂糖、くるみ、松の実 など
冷やす食材…トマト、きゅうり、なす、もやし、ゴーヤ、蓮根、たけのこ、ゆりね、ごぼう、大根、セロリ、バナナ、すいか、りんご、はとむぎ、こんぶ、ひじき、わかめ、かに、たこ、豆腐 など
陰虚(いんきょ)
陰虚(いんきょ)は津虚(水の不足)もしくは血虚が更に進んで、身体を潤しているものが不足している状態です。
陽は身体をあたため、陰は冷やす働きをするため、陽の熱を陰が冷やしきることができず、体に熱がこもって熱くなりやすくなります。
現れる症状としては・手足のほてり・コロコロ便・空咳・寝汗・口、のど、目の渇き・夕方以降に微熱が出やすい・頬が赤くなりやすい・皮膚の強い乾燥、などがあります。
生活養生としては、汗をかきすぎると身体の水分が少なくなり、陰虚が助長される可能性があるので注意し、こまめな水分補給をこころがけること、食養生としては身体を潤す食材、その中でも熱を助長しないもの(平※)、冷ます傾向のある食材(涼・寒)を取り入れることが挙げられます。
ゆり根、れんこん、やまいも、おくら、トマト、きゅうり、白きくらげ、白ごま、すっぽん、あわび、はまぐり、梨、柿、びわ、すいか、豆腐、豆乳、豚肉、鴨肉
※食べ物がもたらす作用にかかわる5つの性質を「五性」といい、それぞれ「寒(かん)」「涼(りょう)」「平(へい)」「温(おん)」「熱(ねつ)」の5つの種類があります。
・酸甘化陰(さんかんかいん)といって酸味と甘味を取ることで陰液(からだの体液)を作り出すと言われています。
例えば、梅干しとご飯、レモンとはちみつなどの組み合わせがあります。
日常手に入るトマト、りんご、梨、ぶどう、メロンなどは、自然の甘みと酸味が備わっていて、身体を潤すとされています。
・「刺激の強いもの、辛いもの」は陰液を消耗するとされているのでなるべく避ける。
唐辛子、コショウなどの香辛料や、生姜、ネギ、ニンニクなどの辛み野菜の摂りすぎに注意しましょう。
次回は「五臓」についてお伝えします。
薬剤師 宇喜多 和美
この世の万物、すべての現象は「陰」と「陽」のどちらかに分類できるという考えを基本としています。
陰と陽は互いに対立して、抑制しあい、また助け合い、依存しあう関係でもあります。
物質や現象にはすべて対立した陰と陽の二面をもちます。
陰と陽のどちらかが良くてどちらかが悪い、ということはありません。
陰陽どちらも必要で、陰と陽は互いに制約しあうことで、片方が行き過ぎないようにバランスをとっています。
身体も陰と陽の二面を持ちます。健康は陰と陽のバランスによって左右されて、病気はそれが崩れることで発症します。つまり健康とは体内の陰陽のバランスがとれている状態と考えます。
陰があるから陽があり、陽があるから陰があるように、相互の存在がそれら自身の存在の前提となっていて、陰と陽がそれぞれ独立して存在することはありません。
例えば1日の中で昼は陽、夜は陰にあたりますが、昼がなければ夜もありません。
また常に一定な昼と夜の区別がなされるようなことはなく、昼から夜に向けてまた夜から昼に向けて常に変化していくように、陰陽はお互いの力関係に基づいて絶えず変化していて、一瞬たりとも静止することはありません。
物質や現象には陰陽の両面がありますが、陰は陽に、陽は陰に変化することもあります。
「陰、極まれば陽となり、陽、極まれば陰となる」という言葉がありますが、物質や現象はある一定の程度・段階に達すると、陰は陽に、陽は陰に転じることがあります。
四季を例にして考えてみますと、冬の寒さ(陰)が極まると、必ず春の暖かさ(陽)が来て、夏の暑さ(陽)が盛りを過ぎると、必ず秋の涼しさ(陰)が来ます。
夏至は自然界の陽気が最も極まる日であり、冬至は自然界の陰気が最も高まる日です。
次回は気血水と陰陽についてお伝えします。
薬剤師 宇喜多 和美
漢方では人体の構成成分を「気(き)血(けつ)水(すい)」ととらえます。
そのうちの「水」とは、体内を流れる無色の液体であり、人体内の正常な水分のことをいい、血液以外の全ての体液と分泌物(リンパ液、消化液、尿、汗、鼻水など)を意味します。体中に分布されて全身を潤す役割をし、水分代謝や免疫力にも深く関わります。
関節に至った水は関節をなめらかに潤してはたらきを円滑にします。
水は栄養をあたえる作用もあり、血脈内に浸透した水は血脈に栄養を与えて、血液を造り出す作用ももちます。
水の失調と現れる症状
水滞(すいたい)
水の過剰や滞り、体内の水の偏在が起こっている状態です。
・むくみ
・身体が重だるい
・重苦しい痛みがある
・頭重感
・脈打つようにズキズキ痛む頭痛
・ぐるぐるするめまい
・朝のこわばり
・しびれやすい
・冷えやすい
・胃のぽちゃぽちゃ音
・水様性下痢
・軟便傾向にある
・車酔いしやすい
・尿量減少又は多尿
・水様の鼻水
・唾液分泌過多
・痰がからみやすい
・喘鳴
・舌の淵に歯形が付く
・舌の苔が分厚い
・雨の日に具合が悪くなる
・梅雨時期に体調が悪くなる
・脂肪が多い
・月経前にむくみがひどくなる
・おりものが多い
津虚(しんきょ)
中医学では水のことを津液(しんえき)としています。
水(津液)の不足による潤す力、栄養をあたえる力が失調している状態です。
組織液の不足により主に乾燥の症候がみられます。
・鼻、咽頭や口唇の乾燥
・口渇
・声が枯れる
・皮膚が乾燥してカサカサする
・空咳
・便秘
・コロコロ便
・尿量の減少
・関節が動かしづらい
水滞体質の養生
・湿気に注意し、湿気のこもらない生活をこころがける
・湿度の高くなる梅雨時期などは不調になりやすいので注意
・新陳代謝を促す入浴は長めにとる
・身体を冷やさない
・水分を必要以上に摂りすぎず、1回分は少量をこまめに摂る
食養生
・あずき・緑豆・こんぶ・のり・わかめ・とうもろこし・きゅうり・トマト・冬瓜・えんどうまめ・緑豆もやし・スイカ・梨・アサリ・シジミ・こんぶ・海苔・ワカメ・はまぐり・クラゲ・ハトムギ・鴨肉・鶏肉
津虚体質の養生
津虚になる原因としてまず水(津液)生成不足が考えられます。
水は飲食物からつくり出されるため、飲食の不摂生や摂取不足が要因になります。
また加齢により水(津液)は消耗していく傾向があります。
そして水の消耗過多(高熱や長期にわたる熱、激しい下痢、 嘔吐や発汗過多、不適切な利尿剤や発汗剤の使用など)も考えられます。
・消化の良いもの、胃腸に負担をかけない食生活を心がける
・激しく消耗する行動を避け、寝不足などの不摂生をしない
食養生
・酸甘化陰(さんかんかいん)といって酸味と甘味を取ることで陰液(からだの体液)を作り出すと言われています。
例えば、梅干しとご飯、レモンとはちみつなどの組み合わせがあります。
日常手に入るトマト、りんご、梨、ぶどう、メロンなどは、自然の甘みと酸味が備わっていて、身体を潤すとされています。
・色の白い食材は身体の潤いを作ると言われています。
白きくらげ、百合根、蓮根、山芋、梨、松の実、白ごま、豆腐など
・「刺激の強いもの、辛いもの」は陰液を消耗するとされているのでなるべく避ける。
唐辛子、コショウなどの香辛料や、生姜、ネギ、ニンニクなどの辛み野菜の摂りすぎに注意しましょう。
次回は「陰陽」についてお伝えします。
薬剤師 宇喜多 和美
漢方では人体の構成成分を「気(き)血(けつ)水(すい)」ととらえます。
その内の「血」とは体内を流れる赤い液体であり、いわゆる血液とその中の栄養を意味します。全身に栄養を供給し、潤す働きをして、ホルモンバランスの調整もします。
血の失調と現れる症状
血虚(けっきょ)
血の不足によって人体が栄養不足になり、潤いが不足している状態です。
・皮膚がカサカサする
・顔色が悪く(白く)つやがない
・爪がもろく色が薄い
・不眠、夢が多くて熟睡できない
・しもやけ、あかぎれになりやすい
・動悸がする
・めまい
・立ちくらみ
・手足がしびれる
・手足が冷えやすい
・疲労倦怠
・目が疲れやすい
・視力が悪くなる、目がかすむ
・便が乾燥して固く便秘がする
・こむらがえり
・不安感がある
・物忘れが多い
・手足のほてり、寝汗がある
・月経量が少ない
・経血の色が薄い
・月経周期が遅れがちになる
・キューっとしぼられるような月経痛がある
・月経の後半に痛みが増す
瘀血(おけつ)
血の流れが停滞を起こしている状態です。
・慢性的に同じ部位に刺すような痛みがある
・顔色が悪い(黒い)
・目の下にクマができやすい
・冷え、のぼせがある
・下半身や手足が冷えやすい
・下腹部を押すと痛みがある
・肌荒れしやすい
・しみ、あざができやすい
・そばかす、くすみが気になる
・肩こりがある
・血中コレステロールや中性脂肪が多い
・血管が浮き出て見える
・子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、卵巣嚢腫などの婦人科疾患がある
・痔になりやすい
・刺すような強い月経痛がある
・月経周期が遅れがちになる
・経血の色が暗赤色
・経血にレバー状の塊がある
・月経量が少ないもしくは多い
血虚体質の養生
生活養生
・食事を抜いたり、偏食少食のないようにする
・無理なダイエットはしない
・長時間パソコンやスマホを見続けるなど目の使い過ぎに注意する
・夜更かしなどせず早寝をする
・体力を過度に消耗するような激しい運動は避ける
・過労にならないように休養をとり体を回復させる
食養生
・血を補うとされる黒色や赤色の食材を積極的に摂る
黒豆、黒米、ひじき、ホウレンソウ、にんじん、黒きくらげ、ナツメ、クコの実、松の実、牡蠣、タコ、イカ、羊肉、レバー、牛肉、卵、ライチ、黒ごま、クルミ、落花生
瘀血体質の養生
生活養生
・長時間の同じ姿勢は避ける
・身体を冷やさない
・血行を良くするために入浴はシャワーでなくしっかり湯船につかる
・積極的に身体を動かす
・ストレスをためないよう、ゆったりとした時間をつくり、リラックスを促す
食養生
・揚げ物やお肉中心の食事、バターやラードなど脂肪の多い食品の摂りすぎに注意する
タマネギ、ニラ、ネギ、ニンニク、なす、ピーマン、ちんげんさい、みょうが、らっきょう、よもぎ、桃、ブルーベリー、かに、あじ、黒酢、山椒、酒、紅花、山査子、ウコン
次回は「水」についてお伝えいたします。
薬剤師 宇喜多 和美
「気」とは人体の構成成分のうちのひとつで、生理機能やエネルギーで、絶えず変化しているものです。そのエネルギーとは、生きていくための肉体的、精神的なエネルギーであり、「血」「水」を動かすエネルギーです。
気の具体的な働き
① 推動(すいどう)作用
身体のあらゆる生理活動、例えば、血液循環、成長発育、新陳代謝、ホルモン分泌などを促進する働き。
② 温煦(おんく)作用
身体を温め、機能を活発化して、体温を正常に保つ働き。
③ 防御(ぼうぎょ)作用
身体の外表面を守り、外部からの邪気の侵入を防ぐ働き。また、このような働きをする気を衛気(えき)といいます。
④ 気化(きか)作用
血や水の生成と水の代謝および汗や尿への転化をコントロールする働き。
⑤ 固摂(こせつ)作用
血、汗、尿などがもれるのを防ぐ働き。
以上5つの働きがあり、これらは相互に関連して作用します。
気の失調と現れる症状
気虚(ききょ)
気の不足、すなわち機能低下・エネルギー不足が起こっている状態。
・身体がだるい
・気力が無い
・疲れやすく体力がない
・食欲不振
・消化不良
・下痢をしやすい
・風邪をひきやすい
・息切れする
・食後に眠くなりやい
・日中眠気が強い
・汗をかきやすい
・出血傾向(鼻血や不正出血)
・尿が薄くて多い
・冷えやすい、寒がり
・声が小さい
・月経の周期が短い
・月経の期間が長い
気滞(きたい)
気の巡りが悪くなって停滞するなどの運行障害、機能障害が起こっている状態。
・ストレスが多い
・イライラしやすく怒りっぽい
・抑鬱傾向(気分がふさいで憂鬱になりやすい)
・胸脇苦満(肋骨の下が張って圧迫感があって苦しい状態)
・喉がつかえて異物感がある
・ガスがたまりやすい
・げっぷやおならが出ると楽になる
・便秘傾向
・便秘と下痢を繰り返す
・月経前緊張症群
・月経周期が安定しない
・変動性・遊走性の痛み
・時間により症状が変化しやすい
気滞の一種で、本来下降すべき方向性を持っている気が逆方向へと上昇してしまう状態を気逆(きぎゃく)といいます。
・げっぷが出やすい
・冷えのぼせ
・咳
・悪心・嘔吐
・しゃっくり
・呼吸困難
・発作性の頭痛
・発作性の動悸
・めまい
気虚体質の養生
生活養生
・しっかり休む
・睡眠をしっかりとる
・消化の良いもの、胃腸に負担をかけない食生活を心掛け、食べすぎない
・食事は抜かない
・汗をかきすぎるような激しい運動や長風呂などは避ける
食養生
かぼちゃ、キャベツ、アスパラガス、ブロッコリー、やまのいも、じゃがいも、さといも、さつまいも、しいたけ、まいたけ、アボカド、枝豆、えんどう豆、グリーンピース、そら豆、さやいんげん、苺、さくらんぼ、バナナ、玄米、もち米、きび、あわ、大麦、小麦、蕎麦、大豆、栗、鰻、海老、鮭、帆立貝、はちみつ、鶏肉、豚肉、牛肉、鴨肉、羊肉
気滞体質の養生
生活養生
・規則的な生活
・ストレスをためないよう、ゆったりとした時間をつくり、リラックスを促す
・心地の良いと感じる香りを生活の中に取り入れる
・柑橘類や梅干し、黒酢などの酸味を食事に取り入れる
食養生
セロリ、春菊、みつば、紫蘇、ミント、パセリ、パクチー、せり、クレソン、小松菜、グレープフルーツ、みかん、ゆず、かぼす、シークワーサー、オレンジ、金柑、胡椒、八角、フェンネル、菊花、陳皮、ミント、ジャスミン
次回は「血」についてお伝えいたします。
薬剤師 宇喜多 和美
漢方薬は病名に合わせて選ぶのではなく、その人の体質や症状に合わせて選びます。
ゆえに病名が同じであっても人によって適した漢方薬が異なる場合があります。
まずは体質や症状の状態を把握するにあたり基礎となる漢方の人体のとらえ方をお伝えしていこうと思います。
漢方では人体の構成成分を「気(き)血(けつ)水(すい)」ととらえます。
「気」…生きていくための肉体的、精神的なエネルギー
成長促進、血液循環、ホルモン分泌などの生命活動を促進する
「血」「水」を動かすエネルギー
「血」…体内を流れる赤い液体
いわゆる血液とその中の栄養
全身に栄養を供給し、潤す
ホルモンバランスの調整もする
「水」…体内を流れる無色の液体
人体内の正常な水分
全身を潤す
血液以外の全ての体液と分泌物(リンパ液、消化液、尿、汗、鼻水など)
水分代謝や免疫力にも深く関わる
「健康な状態」「元気な状態」というのは、この三要素が過不足なくバランスを保ち、スムーズに巡っている状態をいいます。
しかし、いずれかの要素が1つでも過不足や停滞をきたすと、身体や精神にさまざまな症状となって現れます。
どの要素が不足しているか、過剰なのか、巡っていないのかは人によって違います。
生まれ持った身体の傾向と、生活習慣が積み重なることで出てくる身体の傾向を合わせてその人の体質になります。
また、出ている症状の状態を合わせて判断し適した漢方薬を選んでいきます。
次回は「気」のことをより詳しくお伝えいたします。