Dr.Matsushitaの医療留学事情

契約医師の声

プロフィール:

松下 誠人 (循環器内科専門医)

医学博士、日本循環器学会認定循環器専門医、日本内科学会認定内科医、日本心血管インターベンション学会認定医

2007年 日本医科大学卒業

現在日本医科大学千葉北総病院集中治療室に勤務

ユビキチン-プロテアソームシステムについて(2024年 4月)

Rutgers New Jersey Medical School

Cell Biology and Molecular Medicine

Postdoctoral Fellow Masato Matsushita


 生物の生命活動はDNA情報をタンパク質に翻訳することで行われています。そして、翻訳によってできたタンパク質の一部は細胞内で別のタンパク質の発現を制御し、非常に複雑な生体システムを構築しています。一方、できたタンパク質を細胞内で分解するシステムがあることも分かっています。これは細胞内のシグナル伝達経路の調整に非常に重要なシステムです。細胞内タンパク質分解システムは大きく分けるとリソソーム(物質の分解を担う細胞内小器官)が関与するものと、ユビキチン修飾系と呼ばれるものの2種類があります。今回はユビキチン修飾系についてお話させていただきます。ユビキチン修飾系にはE1(活性化酵)、E2(結合酵素)、E3(ユビキチンリガーゼ)の3種類の酵素が関与します。E1はユビキチンを活性化する酵素で、エネルギー(ATP)を使ってユビキチンの末端をE1自身に付加します。さらにE1は活性化したユビキチンをE2に渡します。E2はユビキチン接合酵素で、標的タンパク質に結合しているE3(ユビキチンリガーゼ)に接合します。するとE2に付いているユビキチンがE3を介して標的タンパク質に受け渡されます。このようにして標的タンパク質に複数のユビキチンが付加(ポリユビキチン化)されていくと、プロテアソームというタンパク分解酵素がユビキチン化されたタンパクを認識してこれを分解します。一度標的タンパク質に結合してプロテアソームに取り込まれたユビキチンは、脱ユビキチン化酵素(DUB)によって基質から除去され、再利用されます。

 ユビキチンプロテアソーム系の機能障害は神経変性疾患や癌など、多くの疾患に関与していることが分かってきています。プロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブは多発性骨髄腫の治療薬として臨床応用されています。また、最近では腎性貧血の治療薬としてPHD阻害薬が使用されるようになりました。PHDによりHIF(低酸素誘導因子)が水酸化されるとHIFがユビキチンプロテアソーム経路によって分解されます。PHD阻害薬はHIFのユビキチン化を抑制することでHIFの分解を抑制し、HIFを安定化させます。HIFの刺激によりエリスロポエチンという造血促進タンパクが増加し、貧血を改善させることができます。

 2004年、ユビキチンを介したタンパク質分解の発見の功績により、チカノーバー、ローズ、ハーシュコの3人の研究者がノーベル化学賞を受賞しました。

オミックス情報解析について(2024年 3月)

Rutgers New Jersey Medical School

Cell Biology and Molecular Medicine

Postdoctoral Fellow Masato Matsushita


 オミックス(Omics)はギリシャ語で「すべて」を表す-omeに「学問」を意味する-icsを付けた言葉であり、その研究対象全体の学問を意味します。これまでの分子生物学は病態解明のために単一分子に着目して仮説を検証していく手法で発展してきましたが、次世代シークエンサー(塩基配列解読装置)の登場や解析技術の進歩により、生体内の遺伝子やタンパク質などを網羅的に調べて病態に迫る新しい方法が登場してきています。これをオミックス解析と呼び、対象がDNAならゲノミクス、mRNAであればトランスクリプトミクス、タンパク質ならプロテオミクス、最終代謝産物の場合はメタボロミクスと呼ばれます(図1)。

ゲノミクス

 ゲノム(遺伝子)を網羅的に解析する手法です。単一遺伝疾患では、ポジショナルクローニングと言われるような、疾患の原因となっている遺伝子の位置を染色体上にマッピングして、その部位の塩基配列を調べる方法により原因遺伝子の同定を行うことができます。複数の遺伝子が発症に関与する疾患に対しては、ゲノムワイド関連解析(GWAS)(塩基配列中に一塩基だけ違う塩基に置換されている部位(SNP)をマーカーにして、SNPの位置と疾患(糖尿病、脂質異常症、虚血性心疾患などの単一遺伝子では説明できないような疾患)の関連性を統計学的に検索する手法)が行われています。GWASで得られた情報は治療ターゲットや疾患リスクの層別化などへ応用されます。

トランスクリプトミクス

 DNAから転写されたmRNAを網羅的に調べる手法です。従来はRT-PCRによって目的の遺伝子を増幅させて発現量を定量していましたが、この手法では目的とする遺伝子しか解析できません。次世代シークエンサーを用いたRNA seqでは、サンプル中に存在する全ての遺伝子の発現量を定量することができます。最近では1細胞ごとに個別のmRNAを検出することも可能となってきています。

プロテオミクス

 DNAからの転写、翻訳の結果生成されたタンパク質を網羅的に調べます。mRNAの発現とある程度相関しますが、転写後のmRNAや生成されたタンパクの修飾や分解があるため、必ずしもmRNAとタンパク質の発現は一致しません。例えば正常者と疾患患者の血液をプロテオーム解析にかけ、タンパク発現量の違いからその疾患の新しいバイオマーカーが開発されたりしています。

メタボロミクス

 メタボロームは様々な生理的プロセスを経て生成された代謝産物のことを指します。対象はタンパク質だけではなく、アミノ酸、糖、有機酸などの低分子代謝物も含まれます。解析対象の物性に合わせて、核磁気共鳴装置、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどが使用されます。

図1.オミックスの種類と構造

2オミックス一覧

Cell Viability Assayについて(2024年 1月)

Rutgers New Jersey Medical School

Cell Biology and Molecular Medicine

Postdoctoral Fellow Masato Matsushita


 今回は細胞生存アッセイ(Cell Viability Assay)についてお話させていただきます。

 遺伝子編集や薬剤、治療などが細胞の生存率に及ぼす影響を調べるために使用するのがCell Viability Assayになります。細胞内の代謝能や酵素活性を測定することによって、細胞集団中におけるの生存細胞の割合を推定します。アッセイには原理の違いによりいくつかの種類があります。

色素アッセイ

 MTT などのテトラゾリウム(Tetrazolium)化合物を用いる細胞生存アッセイで、細胞内の各種脱水素酵素(Dehydrogenases)によって形成される有色ホルマザン(Colored Formazan)を、吸光度によって検出、測定します。また、ミトコンドリア呼吸鎖からの電子受容によるレサズリン(Resazurin)の還元によって生じた蛍光レゾルフィン(Fluorescent Resorufin)を検出する測定法もあります。試薬に含まれる化合物が脱水素酵素で還元されると蛍光を発し、蛍光強度を分光光度計を用いて測定すれば細胞生存率を推定することが可能となります。

ミトコンドリア膜電位依存的色素アッセイ

 ミトコンドリアが傷害を受けるとミトコンドリアの膜電位が消失します。ミトコンドリア膜電位依存的にミトコンドリア膜に蓄積する色素(Mitochondrial membrane potential-dependent dyes)を利用してその傷害を感知し、生存細胞を同定します。この膜電位の消失の現象は、アポトーシス細胞の検出や解析に用いることも可能です。

エステラーゼ切断色素アッセイ

 カルセイン(Calcein)およびその近縁化合物は疎水性で容易に細胞内に浸透します。生細胞内では加水分解酵素である各種エステラーゼ(Esterases)により切断され、親水性の蛍光物質を生じます。この反応を利用して生細胞を検出します。

ATP/ADPアッセイ

 細胞の活動に必須である物質 ATP 量と生細胞数はほぼ比例するという原理を利用した、ATP 量の測定アッセイです。細胞膜透過化剤を用いて ATP を放出させた上で ATP 依存性ルシフェラーゼ(ATP-dependent luciferase)による化学発光を利用する方法と、ATP によるグリセロールのリン酸化とそれに伴う呈色・蛍光を利用する方法があります。

解糖フラックスと酸素消費アッセイ

 酸素消費速度(Oxygen Consumption Rate; OCR)は細胞代謝の活性度を反映します。同時に細胞内酸素レベル(intracellular oxygen level)や解糖活性(glycolysis activity)を測定すれば、より詳細な解析が可能となります。


図.レサズリンを用いた色素アッセイ

生存細胞内ではレサズリンはレゾルフィンに還元されピンク色の強い蛍光を生じる。生存細胞の数と蛍光強度は比例することから、レサズリンを含んだ試薬を培養細胞に添加し、分光光度計でその蛍光を測定することで細胞生存率を推定できる。

ウイルスベクターを用いた遺伝子導入発現について(2023年 12月)

Rutgers New Jersey Medical School

Cell Biology and Molecular Medicine

Postdoctoral Fellow Masato Matsushita


 前回遺伝子の発現をノックダウンするsiRNAについてお話させていただきましたが、今回は主に遺伝子の発現を行うために使用するウイルスベクターについてお話させていただきます。目的の細胞に、ある特定の遺伝子を過剰発現させることでその遺伝子の機能を解析することができます。また遺伝子治療のツールとしても用いられています。

 ウイルスベクターを構築するにはまず、導入したい目的遺伝子を用意する必要があります。目的の遺伝子配列(プラスミドDNA)を大腸菌に導入することで増幅させ、それを精製します。次にこのプラスミドをウイルスベクターに連結させます。このベクターを制限酵素で線状化して、HEK293というヒト胎児の腎由来の細胞株に導入します。HEK293は容易に遺伝子導入されることから、目的遺伝子のついたウイルスベクターはHEK293の細胞内に取り込まれ、目的遺伝子を含んだウイルス粒子が増殖します。ウイルスを回収し、精製することでウイルスベクターが完成します。これを対象となる細胞に導入されると、対象細胞の中でウイルスベクターに入っている目的遺伝子が発現することになります。その結果として得られるタンパクの発現などをチェックすれば、目的遺伝子の細胞内での役割を解析することができます。

 ベクターとして用いられるウイルスにはいくつかの種類があり、それぞれ長所や短所が存在します。代表的なものとして、アデノウイルスベクターやアデノ随伴ウイルスベクターがあります。前者は宿主のゲノムには取り込まれないという特徴があり、宿主に対する毒性が低いことやウイルスの回収効率が良いことがメリットですが、逆に宿主のゲノムに取り込まれないことから効果が一時的で、時間の経過とともにDNAが消失していくことがデメリットです。アデノ随伴ウイルスベクターは安全性が一番のメリットで、自己複製能がないため宿主への病原性がありません。色々な動物種、組織に導入することができることや、in vitroとin vivo両方に使用が可能なことも利点です。ただし搭載可能なゲノムサイズが小さく、4.2kb程度に制限されてしまいます。その他レンチウイルス、レトロウイルスベクターなどもあり、それぞれの特徴を踏まえ、目的に応じて使い分けを行っていきます。

図. アデノウイルスベクター作製の概要

大腸菌を用いて目的遺伝子を増幅させ、アデノウイルスベクターに連結させる。

HEK293細胞に導入しウイルスを増幅させ、回収する。

siRNAによるノックダウンについて(2023年 11月)

Rutgers New Jersey Medical School

Cell Biology and Molecular Medicine

Postdoctoral Fellow Masato Matsushita


 今回はsiRNA(small interfering RNA;短鎖干渉RNA)を用いたノックダウンについてお話させていただきます。ある遺伝子の機能を消失もしくは低減させたいとき、完全に消失させる手法がノックアウト、低減させる手法がノックダウンとなります。siRNAはノックダウンの代表的な手法であり、短鎖干渉RNAを細胞内に導入することにより標的RNAの発現を抑制することができます。ノックダウンのメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。

 • 遺伝コードを変化させないため、遺伝子の機能を一時的に低減させ、また回復させることができる。

 • 単一クローンを単離する必要がないため、少ない労力で行える。

 • 遺伝子機能を完全に除去すると細胞傷害を起こす遺伝子の場合、ノックダウンなら部分的な抑制なので細胞障害を起こす可能性が低くなる。

 ただし、完全に標的遺伝子の機能を消失させるわけではないので、実験の目的によりノックアウトとノックダウンを選択する必要があります。

 siRNAが細胞内に導入されると、Dicerによるプロセシングを経て、一本鎖RNAが標的mRNAと塩基対を形成します。アルゴノート(Argonaute)タンパク質という標的mRNAを破壊したり翻訳抑制したりするタンパクがsiRNAと結合してRISCという複合体を形成し、遺伝子サイレンシングが生じます。その結果として、もともとの遺伝子コードを変化させることなく遺伝子発現の転写後下方制御が生じることになります。RNAやタンパク質の一部の機能は残存し低レベルで翻訳されるため、RNAi技術を用いた遺伝子機能抑制は「ノックダウン」と表現されます。すなわち、遺伝子機能は低減するものの完全に除去されることはありません。細胞実験でノックダウンを行う場合、化学合成された市販のsiRNAと、導入効率を高めるための遺伝子導入試薬を細胞に加えることで非常に簡便にノックダウン実験を行うことが可能です。

 RNA干渉を発見したクレイグ ・メロー博士 (Craig C. Mello, PhD)とアンドリュー・ファイアー博士(Andrew Z. Fire, PhD)は2006年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

図.siRNAによるノックダウンの機序

A. siRNAは21塩基対の2本鎖RNAである。

B. Dicerによって切り出されて21-23塩基対のsiRNAとなり、さらに1本鎖RNAとなって標的mRNAと結合する。この際RNAの切断や翻訳抑制をするアルゴノートタンパクと結合し複合体(RISC)を形成する。

共免疫沈降(Co-IP)について(2023年 10月)

Rutgers New Jersey Medical School

Cell Biology and Molecular Medicine

Postdoctoral Fellow Masato Matsushita


 今回は共免疫沈降(Co-immunoprecipitation:Co-IP)についてお話させていただきます。

 Co-IPはタンパク質の相互作用を調べるための手法です。

 Co-IPはIPを発展させた手法であり、まずはIPについて説明します。IPでは細胞溶解物などのサンプルに、検出したい標的タンパク質の抗体を入れて複合体を形成させます。さらに、この複合体に結合できる抗体結合タンパク質(プロテインA/G)にビーズ(磁気ビーズやアガロースビーズ)という重りが付いた特殊なタンパク質を入れます。すると複合体はビーズ付きタンパク質と結合し、遠心すると沈殿回収されます。沈殿物だけを回収するとビーズに補足されないタンパク質は全て除去されます。最後に標的タンパク質をビーズと切り離す試薬を入れれば、標的タンパク質が分離されることになります。

 この方法を用いると、サンプル溶液中で生理的相互作用によって標的タンパク質と結合する他のタンパク質も一緒に補足してくることになります。ビーズで補足してきたタンパクの中に標的タンパク質と直接結合して相互作用を示すタンパク質も存在するはずです。これをウェスタンブロットなどで解析することにより、あるタンパク質と結合して相互作用する他のタンパク質の存在を調べることができるということになり、これをCo-IPと呼びます。つまりターゲットが一次標的(もともと目的としていたタンパク)であれば免疫沈降(IP)と呼ばれ、二次標的(もともとのタンパクと相互作用する他のタンパク質)であれば共免疫沈降 (Co-IP)と呼ばれます。


図: Co-IPの模式図

左; サンプル中にAntigen(あるタンパク質)とProtein interacting with antigen(Antigenタンパク質と結合する他のタンパク質)の複合体が存在する。

中; Antigenに対する抗体を結合させる。さらに、この抗体に結合するビーズを入れて遠心する。ビーズが沈殿するので、補足されなかった余分なタンパクが含まれる上清を捨てる。

右; ビーズにくっついたタンパク複合体のみが残るので、試薬を用いてビーズを外し、タンパク解析(ウェスタンブロッティング)を行い、Antigenに直接結合しているタンパク質をチェックすることができる。 

CRISPR-Cas9による遺伝子編集について(2023年 9月)

Rutgers New Jersey Medical School

Cell Biology and Molecular Medicine

Postdoctoral Fellow Masato Matsushita


 今回はCRISPR-Cas9という遺伝子編集技術についてお話させていただきます。ゲノム編集とは、文字通りゲノムを編集する技術です。ゲノムの好きなところを切ったり、切った場所に違う配列を入れ込んだりできます。ゲノムの特定部位にランダム変異を導入する方法をノックアウト法、切り取った場所に別の配列を入れる方法をノックイン法と呼びます。

 もともとノックアウト・ノックインマウスを作製する技術は1980年代に開発され、胚性幹細胞(ES)細胞にノックアウトやノックインしたい遺伝子配列(ノックアウトの場合は本来の遺伝子配列と少し違う配列)を導入し、このES細胞をマウスの胚盤胞に注入します。生まれてきたマウスはキメラマウスと呼ばれ遺伝子操作された遺伝子と通常の遺伝子両方を有しています。このマウスを通常のマウスと交配させることでヘテロ接合型ノックアウトマウスが作製されますが、この方法は遺伝子組み換え効率が低く時間や費用も掛かるなどの欠点がありました。もっと簡便にノックアウトやノックインができたらよいのにというニーズから、ゲノム編集技術が開発されていきます。ゲノム編集の第一世代は1996年に登場したZinc Finger Nuclease(ZFN)、第二世代は2010年に発表されたTALENです。どちらもヌクレアーゼ(DNA切断酵素)であるFok Iとタンパク質を融合して人工的に作製されたものです。しかし、ターゲットゲノムDNAに結合するのがタンパク質のため、デザインが難しいという欠点がありました。変異導入の確認に費用も時間もかかってしまうため、広く利用されるまでは至りませんでした。このような中で登場したのが、CRISPR/Cas9システムでした。CRISPRとは、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeatsの頭文字を取っており、細菌に存在する数十塩基の繰り返し配列のことを指します。CRISPRは1980年代に日本人によって報告されましたが、長らく注目されることはありませんでした。その後CRISPR近傍にヌクレアーゼなどのDNA切断酵素をコードする遺伝子(Cas)が存在することが明らかになり、CRISPRとCasが外敵のDNAを切断する免疫システムであることが報告されました。侵入してきた外敵のDNAは、Casタンパク質により断片化され、細菌のゲノムにCRISPRとして取込まれ、細胞に記憶されます。次に同じDNAが侵入すると、ゲノム中のCRISPRから相補的な塩基配列のRNAが作られます。このRNAがCasタンパク質などと複合体を形成し、侵入してきたDNAに結合して、侵入してきたDNA鎖を切断・不活性化するのです。

 CRISPR/Cas9システムに必要な要素は、ガイドRNA、Cas9、PAM配列となります。ガイドRNAは標的DNAに結合できるように設計されたRNAです。Cas9は標的DNAを切断するハサミの役割をもつタンパク質です。PAM配列はターゲットDNAの下流に存在する、ある特定の塩基配列パターンで、Cas9はこのPAM配列の上流3塩基目と4塩基目の間でDNAを切断します。

 ターゲットDNAの下流にPAM配列がないとCRISPRシステムは使用できないということになってしまいますが、現在は色々なCasタンパクが知られており、それぞれ認識するPAM配列が異なるため、これらを組み合わせることで自在なゲノム編集が可能となっています(図1)。

 その後切断部分の修復と切断が繰り返されることで修復エラーが起き、その部分のDNAの機能が欠失すればノックアウトの成功です。一方ノックインの場合は挿入したい配列を含んだドナーと呼ばれるベクターを細胞内に導入し、これが切断部分に相同組み換え活性により取り込まれてノックインが成功します(図2)。

 このシステムによりゲノム編集が自在に、しかも安価で簡便に行うことができるようになり、遺伝子機能解明研究に大きく寄与しました。また、遺伝子治療分野においてもこれまで異常遺伝子を切り取ったり配列を変更したりするなど不可能だったことが可能となり、治療の可能性が大きく広がりました。

 CRISPR/Cas9システムは2012年に米カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ博士と、独マックスプランク研究所のエマニュエル・シャルパンティエ博士のグループが発表し、両氏は2020年にノーベル化学賞を受賞しました。

図1. CRISPR/Cas9システムによるDNAの切断

2. 切断後のノックアウト、ノックイン

RT-PCRについて(2023年 7月)

Rutgers New Jersey Medical School

Cell Biology and Molecular Medicine

Postdoctoral Fellow Masato Matsushita


 本日はRT-PCR(reverse transcription PCR)についてお話をさせて頂きます。以前お話したPCRはDNAを増幅させて検出する手法になりますが、今回のRT-PCRはRNAの検出や定量に用いる手法になります。遺伝子の発現は、DNAからmRNAが合成され、そこからタンパク質が産生されるという過程をたどります。最終産物であるタンパク質を評価する方法としてウェスタンブロットがありますが、mRNAの発現レベルを定量的に評価できるのがRT-PCRということになります。また、RNAウイルス(COVID-19ウイルスもRNAウイルスです)を検出する際にもRT-PCRが用いられます。通常のPCRとの違いは、PCRの前に逆転写という過程を要することです。RNAを逆転写酵素を用いて相補的DNA(cDNA)に逆転写し、このcDNAを定量的PCRで増幅します(図1)。

 RT-PCRには1段階RT-PCRと2段階RT-PCRがあります(図2)。1段階PCRは、特定のターゲットを増幅するための配列特異的プライマーを用いて、逆転写またはcDNA合成とqPCRを試験管1本で実施します。実験による結果のバラつきが減少する、少ない手順に迅速な実験が可能であることなどが利点として挙げられます。同一遺伝子の定量の繰り返しに用いる場合は1段階法が好まれます。欠点としては、cDNAを分注して別途保存することができないため、アッセイを繰り返すためには元のRNAサンプルがさらに必要となる点が挙げられます。一方2段階RT-PCRでは、逆転写反応とqPCR反応を別々の試験管で行います。1段階方よりも手技手順は増えるものの、バッファーと試薬が入った試験管を別々にすることで、逆転写酵素とPCR試薬の選択の幅が広がります。また、1段階目で合成したcDNAをさらに濃縮・精製し、将来的な使用に備えて保管することができたり、同じサンプルから複数遺伝子を定量するために使うことができるのが利点です。

 逆転写が終了したら、いわゆるリアルタイムPCR(定量的PCR)を行います(図3)。サーマルサイクラー(DNA増幅装置)と分光蛍光光度計を一体化したリアルタイムPCR専用装置を用いて行います。増幅したDNAに結合する蛍光色素を使用し、増幅するDNAの状況を分光蛍光光度計で測定していきます。濃度が分かっているDNAサンプルで検量線を描き、そこに測定したいサンプルの光度変化をプロットしていきます。こうすることでサンプル中のDNA(RNA)量を測定することができます。


図1. 逆転写

RNAを逆転写酵素を用いて逆転写して、RNAに対応する相補的cDNAを合成する。これをPCRに用いる。

図2.  1段階法と2段階法

左冠動脈前下行枝(LAD)に結紮を行う。結紮が成功すれば結紮部位より末梢は色調が変化する。

図3. 定量的PCR

既知の濃度のDNAを用いて検量線を書き、そこに濃度未知のサンプルのサイクル数とDNA量の関係をプロットしていくことで濃度を測定することができる。

疾患モデルマウスについて(2023年 6月)

Rutgers New Jersey Medical School

Cell Biology and Molecular Medicine

Postdoctoral Fellow Masato Matsushita


 本日は、心疾患の研究に用いる疾患モデルマウスの作製についてお話させていただきます。動物疾患モデルは疾病の研究や新薬の開発に大変重要なものです。循環器領域においては、大動脈を結紮して作成する圧負荷心不全モデル(transverse aortic constriction: TAC)や左冠動脈前下行枝の中間部を結紮して作成する心筋虚血モデル(結紮を一定時間で解除する虚血再灌流モデルと永久的に結紮する心筋梗塞モデルがあります)を用いて研究が行われています。

 マウスの心臓手術は全身麻酔下で行います。イソフルレンなどの吸入麻酔薬もしくはペントバルビタールなどの注射薬の腹腔内投与で麻酔導入を行います。麻酔導入後、マウスを仰臥位にして手術台にテープで固定します。鎮痛薬投与、除毛、皮膚消毒、心電図モニター装着の後、気管挿管を行います。頸部に皮膚切開を入れて気管を視認しながら、挿管チューブを口から挿入していきます。正しく挿入されると気管内にチューブが進入してくるところが目視できます。頸部の皮膚切開を縫合して心臓手術に移行します。 

 心筋虚血モデルの作成の場合は胸骨左縁第4肋間レベルに0.5-1.0cmほどの皮膚切開を入れます。攝子と鉗子を用いて筋層を剥離していくと肋骨が露出します。第4肋間で肋間筋を注意深く切開すると縦隔内に心臓を確認できます。開創器で視野を確保し、綿棒などで心膜を剥離して左冠動脈前下行枝を確認します。左前下行枝の中間部を7-0もしくは8-0の縫合糸で結紮します。結紮部位末梢の色調変化と心電図上のST変化により心筋梗塞が完成したことが確認できます。心筋梗塞(慢性虚血)モデルの場合はこのまま肋骨、大胸筋、皮膚をそれぞれ縫合し、体動や自発呼吸が十分確認できたところで抜管を行いケージに戻します。また、虚血再灌流モデルを作成する場合は結紮時に細いチューブを入れて結紮を行い、30分ほど虚血を維持したのちにチューブを外し結紮が緩むことで再灌流を得ます。

 TACモデル作成の場合は胸骨上縁付近に1.5cmほどの切開を入れ、筋肉や甲状腺組織を剥離し大動脈弓を確認します。右腕頭動脈と左総頚動脈の間で糸をかけて結紮を行います。術後にエコーで結紮部位の圧格差を測定することでTACが正しく施行されているかの評価が可能です。

 疾患モデルマウスの作製は手技自体の侵襲や手技のバラつき(作成した心筋梗塞や大動脈圧格差の程度のバラつき)が研究上の問題となりうるため、より低侵襲にかつ個体ごとのバラつきを最小限にした手技が求められます。

図1. 気管挿管

皮膚切開をして、気管を目視しながらチューブを挿入する。

図2. 心筋梗塞モデルの作成

左冠動脈前下行枝(LAD)に結紮を行う。結紮が成功すれば結紮部位より末梢は色調が変化する。

図3. TAC

右腕頭動脈と左総頚動脈の間で結紮を行う。

PCR(polymerase chain reaction)について(2023年 5月)

Rutgers New Jersey Medical School

Cell Biology and Molecular Medicine

Postdoctoral Fellow Masato Matsushita


 本日はPCRについてお話させていただきます。PCRはコロナウイルス検査で用いられる手法として耳にしたことのある方も多いかと思います。研究領域においても、実験に使用するマウスの遺伝子型判定(目的とする遺伝子がノックアウトされているかどうかを判定する)などで用いられます。PCRとはポリメラーゼ連鎖反応という意味で、DNAポリメラーゼというDNAを複製する酵素を用いてDNAを増幅させることで、本来であれば検出不可能な微量のDNAを検出可能とし、検体中のウイルスの存在やマウスの遺伝子型を判別することができるようになります。原理および手順は以下のようになります。

DNA抽出液を用意し、そこにDNAポリメラーゼとプライマー(増幅させたいDNA配列の両端に結合する合成DNAのことで、ここがDNAの合成開始点となりDNAポリメラーゼによってプライマーに挟まれた領域のDNAが増幅していく。)を入れてPCR装置(サーマルサイクラー)にかけます。ウイルス検出が目的であれば、そのウイルスに特異的な遺伝子配列、実験動物の遺伝子型判定であれば、ノックアウトさせようとしている遺伝子配列を挟むことのできるプライマーを用意します。

PCR装置で行われる最初のステップは熱変性です。検体に熱(95℃前後)を加えると、DNAが2本鎖から1本鎖に分離します。

次のステップでは温度を下げて55℃から65℃くらいにします。(プライマーの長さや配列により温度は異なります。)これにより、一本鎖にしたDNA鎖のターゲット部分にあらかじめ抽出液に入れておいたプライマーが結合します。一般的にプライマーは15~30塩基の長さからなる一本鎖の短い合成DNA断片です。元の長い鎖同士も再結合しようと試みますが、プライマーの方が短く、圧倒的に量が多いので、元のDNA同士が結合するよりも早く反応が進みます。この過程はアニーリングを呼ばれます。

次のステップでは再び温度を上げます(72℃くらい)。するとDNAポリメラーゼが作用し、プライマーを起点として新たなDNA分子が合成されていきます。この一連の流れにより、一組の2本鎖DNAから二組の2本鎖DNAが作られたことになります。これらのステップを繰り返すことで、対象とするDNA配列が2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、64倍、、、と増えていく計算になります。

 コロナウイルスのPCR検査ではリアルタイムPCR装置というものを用いて、PCRを行いながら分光蛍光光度計で増幅産物をモニタリングし、蛍光強度が閾値を超えるのに要したPCRのサイクル数をCt値として表示します。もともとのDNA鋳型が多いほどサイクル数は少なくて済むため、Ct値が小さくなります。実験動物の遺伝子型判定の際は、PCR後に電気泳動を行って、電気泳動したゲルを撮影装置で撮影をします。野生型マウスとノックアウトマウスで増幅されたDNAの分子量が異なることから電気泳動によって判別が可能となります。


図1. PCRの原理

PCRに必要なもの

プライマー

増幅させたいDNA領域を挟むことができる合成DNA(プライマー)を準備する。

熱変性

加熱によりDNAを2本鎖から1本鎖にする。

アニーリング

温度を下げてプライマーを結合させる。

伸長

70℃~75℃くらいまで温度を上げることで、DNAポリメラーゼが作用してプライマーを起点にDNAが複製される。

ウェスタンブロット(Western-Blotting:WB)について(2023年 4月)

Rutgers New Jersey Medical School

Cell Biology and Molecular Medicine

Postdoctoral Fellow Masato Matsushita


 本日はタンパク質の検出方法であるウェスタンブロットについてお話させていただきます。WBは抗体を用いて目的とするタンパク質の有無を確認する手法です。前回お話したような遺伝子ノックアウトマウスや、心筋梗塞モデルマウス、心不全モデルマウスなどを作成し、調査対象となる遺伝子の発現が通常時とどのように変化するかを見る際に、対象遺伝子によって産生されるタンパク質をWBで検出します。そうすることで、研究対象としている遺伝子が心臓の働きにどう関与しているか、心筋虚血や心不全の際にどのような働きをするのか、などを明らかにすることができます。

 まずはマウス(ノックアウトマウスや心筋梗塞モデルマウス、心不全モデルマウス)の心臓を採取し、心筋組織からタンパク抽出用薬剤を用いてタンパク質を抽出します。続いて抽出液をポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)にかけます。ゲルにタンパク抽出液を流し、電気泳動をしてゲル内を移動させます。分子量の大きさにより移動する速さが違うため、分子量ごとにタンパクが分離されて並ぶ形になります(図1)。タンパクが移動して並んだ状態になったゲルを、今度はメンブレンに転写をします。メンブレンの上にゲルを乗せて専用のトランスファー装置(電気を流して転写する)でゲルのタンパク質をメンブレンに移します。このメンブレンにブロッキング処理を行い、この後反応させる抗体が非特異的に色々なタンパク質に吸着するのを予防します。ブロッキングが終了したら1次抗体という、検出したいタンパク質に対する特異的な抗体とメンブレンを反応させます。さらに、2次抗体といって1次抗体と結合する抗体に浸し、2次抗体に反応する化学発光検出液をメンブレンにかけて化学発光検出装置で撮影を行います。こうして得られた写真が図2となり、バンドの有無で目的タンパク質の発現の有無が判別できます。

図1: WBの原理

電気泳動したタンパク抽出液を膜に転写して抗体をつけて確認する。

図2: WBで得られるデータ

目的タンパク質の有無をバンドで確認する。目的タンパク質の分子量のところにバンドが出れば、タンパク発現があると判断できる。

ノックアウトマウスについて(2023年 3月)

Rutgers New Jersey Medical School

Cell Biology and Molecular Medicine

Postdoctoral Fellow Masato Matsushita


  本日はノックアウトマウスについてお話させていただきます。私の留学している研究室では、心不全や心筋梗塞の発症に関与する遺伝子やその発現経路を調べるため、ノックアウトマウスを用いた研究を多く行っています。

 マウスの特定の遺伝子を不活性化させ、正常のマウスと状態を比較することで、その遺伝子の機能を推定することができます。マウスと人間は多くの遺伝子を共有しており、あらゆる医学領域において疾患の発症原因や治療方法の研究のためにノックアウトマウスが使用されています。最初のノックアウトマウスは1989年に報告され、開発したCapecchi、Evans、Smithiesは2007年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

 ノックアウトマウスの作製は、以下のような手順で行われます。

1. ノックアウトする遺伝子のベクターの構築

ノックアウトしたい遺伝子とその周辺領域の塩基配列に不活性化するように一部変更を入れたものを組み込んだDNAベクターというものを作製します。

2. ES細胞の相同組み換え、クローン化

できたターゲティングベクターを、ES細胞(胚性幹細胞)にエレクトロポレーション法(電気刺激を細胞に与え遺伝子を導入する方法)で導入し、相同組換えが起きた細胞を選択(クローン化)していきます。

3. キメラマウスの作製

クローン化したES細胞を胚盤胞にインジェクションします。この胚盤胞をマウスの子宮にいれ、着床すればキメラマウスが生まれてきます。キメラマウスは遺伝子が欠損したノックアウト細胞と遺伝子が正常な野生型の細胞を体内に併せ持つことになります。

4. キメラマウスと野生型マウスの交配

完全に遺伝子が欠損したマウスを得るには、野生型のマウスと遺伝子欠損した生殖細胞をもつキメラマウスを交配し、ヘテロ欠損マウスを作製します。このヘテロ欠損マウス同士をかけ合わせることで完全に遺伝子が欠損したマウスを得ることができます。

 こうして作製されたノックアウトマウスは個体の発生段階から全身で遺伝子欠損が生じるため、ノックアウトした遺伝子が生存に必須のものであれば胎児期など早い段階で死亡してしまいます。そうなると、生まれた後で生育とともにその遺伝子がどのような機能を発揮するかを調べることができなくなります。

 この問題を解決するために、コンディショナルノックアウト(条件付き遺伝子破壊)という手法が用いられます(図1)。標的遺伝子の働きの無力化を望んだ時期と場所で行えるようにしたものです。Cre/loxPシステムを用い、標的遺伝子の前後を2つのloxP配列であらかじめ挟んでおきます。loxP配列が入っているだけでは遺伝子の発現は通常通り行われますが、loxP配列を認識してloxP配列に挟まれた遺伝子配列を切り出すことができる酵素Creをコードした遺伝子も導入しておくと、Creの種類によってCreがある特定の時期や特定の場所で発現し、Creが発現できる時期や臓器のみで標的遺伝子の働きが無力化されます。このようにして遺伝子欠損の時期や臓器を限定し、より高度な研究を行うことが可能となっています。


図1. コンディショナルノックアウトマウスの作製

Cre遺伝子を持ったマウスと、LoxP遺伝子を持ったマウスを交配させてコンディショナルノックアウトマウスを作製する。特定の時間、臓器で完全に遺伝子の発現を欠損させるためには、左下図のようにLoxP配列が2本鎖DNAの両方に入った状態(homozygous)になる必要がある。

留学先紹介(2023年 2月)

Rutgers New Jersey Medical School

Cell Biology and Molecular Medicine

Postdoctoral Fellow Masato Matsushita


  2022年12月より米国ニュージャージー州にあるラトガース大学のラボに留学することになりました。ラトガース大学はニュージャージー州立大学で、1766年に創設された全米で8番目に古い大学だそうです。私はここで細胞生物学分子医学部門のポスドクとして勤務させて頂くことになりました。ラボの教授が日本人の先生であり、これまでも多くの日本人医師が留学されています。現在も私のほかに2名の日本人医師が留学中です。ラボには日本人以外にもアメリカ人、インド人、中国人、韓国人などが所属しています。我々のようなポスドクの他、常勤スタッフ(助教)や学生、研究をサポートする技師・スタッフで構成されています。ラトガース大学にはいくつかのキャンパスがありますが、医学部、歯学部、付属病院、医学研究施設はニューアークに所在しています。ニューアークはニューヨークマンハッタンから車や電車で30分弱の場所に位置する、人口30万人弱の都市です。ニューアーク国際空港があり、日本からも飛行機が飛んでいるので名前は馴染みがあるかもしれません。ニューアークはかつて、全米で一番危険な街と言われるほど治安が悪いことで有名でした。現在もダウンタウンは決して治安は良好ではないため注意が必要かと思われますが、自治体の誘致などによりパナソニックやプルデンシャルなど有名大企業がオフィスビルを構えるなどして街中の雰囲気は改善してきているようです。私は通勤のため電車でニューアーク駅を利用しておりますが、駅やその周辺には路上生活者も見受けられアメリカの格差社会を実感します。

 治安、生活、教育などの面から、日本人はニューアーク市内に住むことは少なく、我々ポスドクもマンハッタンの周辺の安全な地域に住むことが多いです。ハドソン川を隔ててマンハッタンの対岸にあるジャージーシティやホーボーケン、ウェストニューヨーク、エッジウォーター、フォートリーなどには日本人が多く居住しています。私はマンハッタンを挟んで、ニュージャージーと逆側にあたる、クイーンズ地区のロングアイランドシティーという所に住むことにしました。自宅から大学までは地下鉄と電車を乗り継ぎ1時間ほどです。ロングアイランドシティーは元々倉庫街のようなところだったようですが、イースト川を挟んで対岸はマンハッタンという良好な立地のため、ここ15年~20年ほどで発達した新興住宅街のような街です。川沿いには高層マンションが沢山立ち並んでいます。スーパーや学校も徒歩圏内にあり、良好な生活環境が整っています。

 今後2-3年、アメリカでの留学生活となります。これまで同様循環器領域のトピックスのほか、研究のこと、生活のことなども報告させていただきたいと思います。

【ラトガース ニュージャージー医科大学】

大学、付属病院、研究施設が一つのエリアに集約している。