漢方のいろは

契約薬剤師の声

プロフィール:

宇喜多 和美(薬剤師)

2004年 明治薬科大学製薬学科卒業

同年 薬剤師資格取得 他の資格 漢方薬・生薬認定薬剤師

漢方のいろは:夏の養生(2024年 4月)

薬剤師 宇喜多 和美


四季にはそれぞれの適切な過ごし方があり、今の季節をいかに過ごすかが、次の季節を健やかに過ごせるかどうかにもつながります。

夏はどのように過ごすのがよいのか、夏の養生についてお伝えします。


1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つ、約15日ずつに分けたものが二十四節気であり、今でも春分、夏至、秋分、冬至など、季節を表す言葉として用いられています。

二十四節気はその年によって1日程度前後することがあります。

その中で夏とは立夏(5/5頃)、小満(5/21頃)、芒種(6/5頃)、夏至(6/21頃)、小暑(7/7頃)、大暑(7/23頃)から秋に入る立秋(8/7頃)までをいいます。



夏の生活養生

東洋医学の基礎となっている医学書である「黄帝内経」(こうていだいけい)では、夏の3ヵ月を蕃秀(ばんしゅう)と言い、蕃秀とは万物が繁栄し、華やかで美しくなることをいいます。

「夏は草木が成長し、万物が茂り花咲き乱れ、陽気が最高潮に達する季節。夏には、少しは夜更かしをしてもよいが、朝は早く起き、夏の日の長さや暑さを嫌がらず、適度に運動して、精神的にも気分を発散させることが大切。」と述べられています。


・夜更かしをしても良いが、朝は早く起きること。


長くなった日照時間に出来るだけ身体をさらすことが身体の代謝を活発にするとされているためです。


・夏の暑さを嫌がることなく適度な運動をすることで代謝を促進させることも大切、かつ暑さや湿気から身を守ることも大切。


夏は一年中で最も体力を消耗する季節となります。

夏は汗を多くかきますが、外の温度が高いのでいくら汗をかいても体温の放散は進まず、体力が消耗してしまいます。

実は汗をかき過ぎると体の水分だけでなく「気」も消耗します。

夏は活動する季節ではあるのですが、汗をかき過ぎる運動や行動は気を消耗することも念頭に置いておきましょう。


昼寝(仮眠)は消耗した気を回復させるのに有効です。

また、収斂作用のある酸味を摂ることで汗の出すぎを抑えることもできます。


水分をしっかり補給することも大切ですが、冷えたものを一度に大量に飲むことは避け、常温程度のものをこまめにゆっくり少しずつ摂るようにしましょう。

過剰に冷たい飲み物を摂取することは胃腸に負担をかけ、消化や栄養吸収の低下をまねき、胃腸虚弱な状態を作ってしまします。


夏は五臓の「心」に負担のかかりやすい時期です。

心とは臓器としての心臓の働きも含み、大量の発汗に伴い体の水分が失われてしまうと血液が凝縮し、心臓にも大きな負担がかかります。


ただ、暑さから逃れるために、むやみに涼を求めて冷房の効いた部屋で過ごし、汗をかかない生活をすることもよくありません。


・暑さでイライラしやすい夏ですが、感情を穏やかに、精神的な安定を保つ。


夏に負担がかかりやすい五臓は「心」であり、「心」は暑さを苦手とします。

「心」のはたらきのひとつに精神・意識を統括するという役割があります。気持ちにゆとりを持つことは「心」の養生になります。

早起きして、涼しい早朝のうちに行動することを心掛けてみてはいかがでしょうか?



夏のトラブル

梅雨時期は雨が多く湿度が上がるため、水の滞りが起こりやすくなり、その影響が全身各所に出てきます。

頭痛・むくみ・めまい・関節症状など


特に多湿を嫌う五臓は「脾」であり、「脾」に負担がかかることで消化器症状が出やすくなります。

また、夏の暑さに対して冷たい水を過剰に飲んでしまうと胃が冷やされてしまうことからも消化吸収の働きをコントロールする「脾」の働きが低下してしまいます。

胃もたれ・食欲不振・吐き気・下痢など


「脾」は、飲食物を消化・吸収して栄養物質に変化させています。

「脾」への負担により必要な栄養を摂れなくなると、「気」や「血」の不足も生じやすくなります。

「気血」の不足により、また過度な発汗により気が消耗することからも疲れやだるさが起こりやすくなります。


「血」の不足により精神的に不安定になったり不眠が生じたりします。

更に、暑い夏は夜になっても気温が下がらず、睡眠の妨げになります。


部屋と屋外との温度が冷房のため大きな寒暖差を起こすことになり、体の温度調節機能が追い付かず自律神経のバランスが崩れることで不調を起こす人も増えます。

冷房の温度は高めに設定しておくことが大切です。



夏の食養生

暑さによりこもった熱を冷ますもの、水を巡らせて水分代謝を良くするものを取り入れるとよいでしょう。

きゅうり・トマト・ナス・苦瓜・おくら・冬瓜・ズッキーニ・レタス・スイカ・メロン・パイナップルなど

旬のものを摂ることが養生になります。


消耗した気を補う食材を取り入れるのもよいでしょう。

かぼちゃ、キャベツ、アスパラガス、ブロッコリー、やまのいも、じゃがいも、さといも、さつまいも、しいたけ、まいたけ、アボカド、枝豆、えんどう豆、グリーンピース、そら豆、さやいんげん、苺、さくらんぼ、バナナ、玄米、もち米、きび、あわ、大麦、小麦、蕎麦、大豆、栗、鰻、海老、鮭、帆立貝、はちみつ、鶏肉、豚肉、牛肉、鴨肉、羊肉


ただし、食べすぎには注意しましょう。


漢方のいろは:漢方薬Q&A①(2024年 3月)

薬剤師 宇喜多 和美


Q.漢方薬の剤形とそれぞれの特徴について教えてください

医療用漢方製剤としてエキス剤が普及しており一番馴染みがあるかと思いますが、漢方薬の剤形として、他には湯剤、散剤、丸剤などがあります。


・湯剤

土瓶などに生薬と水を入れ加熱し、生薬の成分を抽出する煎じ薬です。

古来、伝統的な漢方薬の基本剤形になり、剤形の中では一番効果的だと考えられています。

日持ちがしないものなので、1日分をその日に作り、1回約30~50分かけて煎じるなど服用するまでに至る工程に時間を要するものになります。


・散剤

生薬を細かく砕いて粉末状(原末)にして、組み合わせたものです。

芳香のある揮発性の有効成分が煎じることにより損なわれる可能性のある処方などがあえて散剤で作られることもあります。

散剤は片栗粉や小麦粉のようにふわふわして舞いやすいので扱いづらいという点、エキス剤に比べると生薬の味を感じやすく人によっては飲みづらさを感じる場合もありますが、生薬そのものを摂取することになるので、効果的に優れていると考えられています。


・エキス剤

生薬を煎じたものから水分を蒸発させ、賦形剤などを加えて固形・顆粒状にし、錠剤、顆粒剤、カプセル剤に加工されます。目の細かい粉状に加工されたものもあります。

湿気やすく、顆粒剤は特に湿気ることにより固化して飲みづらくなってしまうという面もありますが、扱いやすさ、携帯しやすさ、飲みやすさがあります。

特に医療用漢方製剤としては一番普及している剤形になります。


・丸剤

生薬を粉末にしたものに蜂蜜等を加えて丸く固めたものです。

他の剤形よりも長期保存ができ、また体内でゆっくりと時間をかけ溶けるため、効き目が緩やかで、持続性もあるといわれています。



Q.漢方薬のおすすめの剤形を教えてください

効き目が優れている点で選びますと煎じ薬になりますが、煎じる時間がとれないなどで続けて飲むことが出来ない場合も考えられます。

漢方薬は長期的な服用になるケースが多いので、自分ではどの剤形が続けやすいか、ご自身のライフスタイルに合わせて続けやすい剤形を優先して選ぶことが大切だと考えます。



Q.漢方薬の飲み方を教えてください

煎じ薬は通常1日量を2~3回に分けて飲み、その他の剤形は通常1日2~3回水又は白湯、またはお湯で服用します。

顆粒剤は溶けやすいので、お湯に溶かして服用する場合もあります。


漢方薬は空腹時に飲むことが効果的だとされており、胃の中に何も無い状態での服用、食前、食間服用が基本になります。

食前とは食事の約30前、食間とは食後約2時間後をさします。


ただ、決められた1日量をしっかり飲むことが大切になりますので、食前に飲み忘れた場合は食後服用でもかまいません。生活リズムの中で食前や食間服用が難しい場合は毎回食後服用でも問題はありません。

自分が飲むことができるタイミングを優先することが大切です。


また、漢方薬の種類、その方の体質によっては胃腸への負担を軽くするためにあえて食後服用と指示される場合もあります。



Q.漢方薬の種類はどれくらいありますか

現在日本で一般用漢方製剤として承認基準が制定されているものは294処方、医療保険の適用のある処方が148処方あります。


一般用漢方製剤

昭和49年一般用医薬品として使用可能な漢方処方として、210処方が規定される。

平成20年9月30日 新基準が制定され、213処方となる。

平成22年4月1日 基準の改正(新処方の23処方追加)

平成23年4月15日 基準の改正(新処方の27処方追加)

平成24年8月30日 基準の改正により、294処方となる。(新処方の31処方追加)


医療用漢方処方

148処方(エキス製剤147+軟膏1)


漢方のいろは:春の養生(2024年 1月)

薬剤師 宇喜多 和美


四季にはそれぞれの適切な過ごし方があり、今の季節をいかに過ごすかが、次の季節を健やかに過ごせるかどうかにもつながります。

春はどのように過ごすのがよいのか、春の養生についてお伝えします。


1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つ、約15日ずつに分けたものが二十四節気であり、今でも春分、夏至、秋分、冬至など、季節を表す言葉として用いられています。

二十四節気はその年によって1日程度前後することがあります。

その中で春とは立春(2/4頃)、雨水(2/19頃)、啓蟄(3/6頃)、春分(3/21頃)、清明(4/5頃)、穀雨(4/20頃)から夏に入る立夏(5/5頃)までをいいます。


春の生活養生

春は冬の間隠れて静かにしていた全てのものが、芽を出し活動的になり始める時期です。

東洋医学の基礎となっている医学書である「黄帝内経」(こうていだいけい)では、春の3ヵ月を発陳(はっちん)と言い、「この季節には、少し遅く寝て少し早く起き、楽な格好で外に出てゆったりと歩き、体をのびやかにし、春に芽生えた万物と同じように、心身ともに活き活きと、活動的な気持ち、あるいは活動するのがいい。これが春の季節に調和した養生法である。」と述べられています。


・夜更かしをしても良いが、朝は早めに起きること。


日の出とともに大気中に自然の「陽気」(体を温め、体を活発に動かすためのエネルギー)が増えるため、身体をそれに合わせるために、朝は早めに起きることが大切です。

陽気を体内に取り入れるために、朝日を浴びて散歩するのが良いでしょう。

睡眠時間は減りますが、多少夜更かしをしてもかまいません。


・冬の間に留まっていた気を身体中に巡らせること。


束縛をせずのびやかな状態にするため、下着や衣服も締め付けない、ゆったりとしたものを選びましょう。

髪をきつく縛ることを避けるなど、身に付けるものによってからだを締め付けないようにしましょう。

意欲をおこしのびのびとさせ、今までしまい込んでいた力を引き出すように、いろいろなものに目を向けチャレンジしてみましょう。


・下半身の冷えには注意


春になって日中は暖かくても地面はまだ冷たく、足元は冷えやすくなります。上半身は薄着でも下半身は温めて冷やさないようにしましょう。

暖かくなったからといって急に薄着になると寒の戻りがあった時血管が収縮して血行が阻害されて体内の機能が落ちてしまいます。着るものは少しずつ減らしましょう。



春のトラブル

春になると、鎮静化していた細胞も活動的になり、新陳代謝が活発になり、内臓の働きも活性化し、脂肪や老廃物を排泄して段々と冬の体から春の体へと変化していくため、解毒・排毒の役割を担う肝臓への負担が大きくなります。


五行説でいうと春には五臓の肝が亢進しやすくなるといわれています。

肝は肝臓の機能を含みます。


また、春は、進学、入社、引っ越しなど新しい環境が増える時期でもあります。そのため、人は環境変化のストレスを受けることが多くなります。

ストレスにより体内を流れる気は停滞しやすくなり、それによって気分の落ち込みやイライラ、怒りっぽい、情緒の起伏が激しい、ゲップやおなら、おなかの張り、喉の痞え、便秘と下痢を繰り返すなどの気滞症状が起きやすくなります。


肝はストレスによる影響を特に受けやすく、肝は気の流れを調整して、感情や自律神経をコントロールする役割を担っているので、より気滞症状が出やすい状態になります。


このように肝への負担が大きくなると、感情や自律神経のバランスの乱れが起こりやすくなり、また肝は血液を貯蔵し、血液の流れを調節する役割も担っているので、のぼせ、血圧上昇、目や鼻の粘膜の充血なども起こりやすくなります。


肝は、気の流れを調整して、感情や自律神経のコントロール、血液の貯蔵・血液の流れの調節、筋肉や関節の運動の調整という役割を担っています。

このように肝への負担が大きくなり気の流れをコントロールできなくなると、陽気は上へ上へと昇る性質があるので、身体の上部の症状が出やすくなります。

イライラして怒りっぽい、目の不調(ぼやけ、かすみ、眼精疲労)、めまい、耳鳴り、頭痛、のぼせ、不眠、血圧上昇、目や鼻の粘膜の充血、胸脇部の張り、筋肉のこわばり、肩こりなどが出やすい症状として挙げられます。



万物の芽吹く春は、一年の中で気が一番旺盛になり躍動します。

環境の変化でストレスが増えること、肝への負担により、気のコントロールが出来なくなることもあり、更に気の流れが乱れやすくなります。

気の流れの乱れにより、自律神経のバランスの乱れが起こります。

また、春は昼と夜の寒暖差が大きくなり、更に自律神経が乱れやすくなる傾向にあります。

自律神経はホルモンと密接な関係があります。

自律神経のバランスの乱れによりホルモンの分泌に変化があらわれ、その変化の一つとして皮脂が過剰に分泌されやすくなり肌が荒れやすく、ニキビも悪化しやすくなることがあります。

また、春は風が強く花粉やほこりが舞いやすく、紫外線が段々に強くなることから肌への負担が増すことも、春に肌症状が悪化する原因のひとつと考えられます。



春はよく風が吹きます。これが人体に悪影響を与えると「風邪(ふうじゃ)」という春に最も多い病気の原因となります。

風邪は百病の長と言われ、黄帝内経には風邪による病気や症状は多種多様だと書かれています。

風邪は様々な病気を引き起こし、風邪は湿と結合して「風湿」、熱と結合して「風熱」、乾燥と結合して「風燥」、寒と結合して「風寒」となるなど、病気に進行が早く変化しやすいことが特徴で、全身のあちこちに症状が出やすくなります。

まず風邪が身体に侵入すると、頭痛や鼻水、発熱、のどの痛み、咳、目のかゆみ、発疹や皮膚の痒みなど身体の上部や体表部に症状が現れやすくなります。

風邪が体内に入り込んで重大な病気を引き起こさないようにすることが重要な課題です。

風邪症状が出た際はできるだけ早く対処し風邪を追い出すことが大切です。



・肝への負担が大きくなる

・気滞症状が出やすくなる

・身体の上部の症状が出やすくなる

・自律神経のバランスの乱れが起こりやすくなる

・肌症状が悪化しやすくなる

・「風邪」を防ぐ



春の食養生

春は肝への負担が大きくなる季節ですので、酢、レモンなどの柑橘系の果物、梅干しなどの「酸味」は肝の働きを整えます。

しかし、酸味は収斂作用があり、摂取しすぎると春に発散すべきところを抑制してしまう面もあります。

消化器系が弱い場合も、酸味は胃腸に負担となることもあるので注意が必要です。

酸味は有効であると同時に、摂りすぎはよくないこと、場合によっては控えるようにした方がよいこともあります。


冬から春にかけて植物の多くは根に集中させた養分から芽を出し、茎、葉を成長させます。春の養生食としては、その生長点に当たる芽、葉、茎が多くあります。

春野菜には苦みがあるものが多いですが、この苦み成分には、体内の老廃物や毒素を排出してくれる働きがあります。

よもぎ、ふきのとう、ふき、タラの芽、うど、こごみ、わらび、うるい、ぜんまい、つくし、行者にんにくなどの山菜や、タケノコ、新玉ねぎ、春キャベツ、アスパラガス、菜の花、三つ葉、セロリ、クレソンなど旬のものを取り入れるようにしましょう。


漢方のいろは:臓腑(2023年 12月)

薬剤師 宇喜多 和美


臓腑とは陰陽五行説を応用して、身体のいろいろな機能を系統立ててとらえたもので、5つの臓と6つの腑(五臓六腑)があります。

「五臓」は肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)から成り、「六腑」は胆(たん)・小腸(しょうちょう)・胃(い)・大腸(大腸)・膀胱(ぼうこう)・三焦(さんしょう)から成ります。


「五臓と六腑」は単独ではなくお互いに助け合い、コントロールしあい、密接に関係しあいながら機能しています。

「五臓と六腑」は「陰陽(いんよう)」「表裏(ひょうり)」の関係にあります。

表裏とは、「五臓と六腑」は経絡(けいらく)によるつながりがあり、例えば一方の五臓が弱くなると対になる六腑の機能も弱くなるということが起こります。

五行説と臓腑

五臓六腑から三焦を除いた五臓と五腑を五行にあてはめ、五臓の肝・心・脾・肺・腎と、五腑の胆・小腸・胃・大腸・膀胱のそれぞれが五行、木・火・土・金・水にあてはまります。

五行説を用いた五臓の相互関係は下図のようになり、肝→心→脾→肺→腎(→肝にもどる)の順番で助け合っています。これを相生(そうせい)関係といいます。


親子関係であり、肝が親で心が子、心が親で肺が子、というように親が子を助け育て、子によって親も育てられています。例えば親の調子が悪くなると子の面倒が見られなくなり、子の調子が悪くなる、というように影響しあっています。


これに対し、肝→脾→腎→心→肺(→肝にもどる)というように抑制しています。これを相克(そうこく)関係といいます。


例えば、ストレスで胃が痛い、という症状はストレスと関係の深い肝に負担がかかり、消化器と関係の深い脾が攻撃されてしまい起こった状態です。


このように、五臓が関係しバランスをとることで、私たちの体は心身ともに健康状態を維持しているとされます。

五臓

五臓の主な機能は以下の通りになります。


肝:気の流れを調整して、感情や自律神経をコントロールする。

  血液を貯蔵し、血液の流れを調節する。

  筋肉や関節の運動を調整する。

  ストレスによる影響を特に受けやすい。


心:五臓の中で最も重要な臓であり、五臓六腑を統率する。

  精神・意識をコントロールする。

  血液循環を支配している。


脾:飲食物の消化吸収を管理し、吸収した栄養物を気血水に変えて全身に供給する。

  消化管内の水分代謝を調節する。

  全身の血液の機能を統率する。コントロールできないとき、血液が血管の外に流れ出る現象が起き、いろいろな出血症状が引き起こされる。

  後天の本(飲食物の消化吸収によって、生命エネルギーを支えていく)といわれる臓である。


肺:呼吸をおこない、気を生成し、気を体内に分布させる。

  水分代謝を調節し、余分な水は汗や尿として体外に排出させる。

  肺の作用によって気が皮膚に送られ、皮膚を保護し、外気温に対して温度調節を行い、外邪の侵入を阻止する免疫機能に関係する。


腎:生命力を貯蔵する。

  成長・発育・生殖に関わる。

  水分代謝を調整し、余分な水は尿として体外に排出させ、体内の正常な水分バランスを維持する。

  先天の本(生まれ持った生命エネルギーを保持している)といわれる臓である。


六腑

六腑の主な機能は以下の通りになります。


胆汁の貯蔵と排泄

  決断や勇気など精神活動に影響する


小腸飲食物のうち必要な分をよりわけて吸収する。

   水分を吸収する。


飲食物を最初に受け入れ、胃でドロドロにしたあと小腸・大腸へと運ぶ。


大腸小腸で消化吸収されたものの水分を吸収し不要なものは糞便として排泄させる。


膀胱余分な水分を貯めて、尿として排泄する。


三焦:具体的な形は無いが、機能のある腑。

   上から下への水の通り道。

   上焦・中焦・下焦の3つに分けられる。

漢方のいろは:冬の養生(2023年 11月)

薬剤師 宇喜多 和美


四季にはそれぞれの適切な過ごし方があります。

今の季節をいかに過ごすかが、次の季節を健やかに過ごせるかどうかにもつながります。

今回は、冬はどのように過ごすのがよいのか、冬の養生についてお伝えいたします。


1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つ、約15日ずつに分けたものが二十四節気であり、今でも春分、夏至、秋分、冬至など、季節を表す言葉として用いられています。

二十四節気はその年によって1日程度前後することがあります。

その中で冬とは立冬(11/7頃)、小雪(11/22頃)、大雪(12/7頃)、冬至(12/22頃)、小寒(1/5頃)、大寒(1/20頃)から春に入る立春(2/4頃)までをいいます。



◆冬の生活養生

東洋医学の基礎となっている医学書である「黄帝内経」(こうていだいけい)では、冬は草木が枯れて枯れ落ち、穀物は倉(蔵)の中にしまい込まれ、動物は冬籠りをするように、すべてが閉塞して陽気(エネルギー)を外に出さない季節とし、

「この季節には早く眠り、日の出に合わせてややゆっくりと起き、心静かに過ごし、寒冷を避け温かく保ち、また、汗をかいて陽気を失われないようにする。」と述べられています。


・必ず早く寝、朝は必ず日がさすのを待ってから起きましょう。

・心穏やかに静かに過ごしましょう。

・やがてやってくる春に向けて着々とエネルギーを蓄える時期で、寒さに負けない体力作りをするため、消耗するような運動は控えましょう。

・冷えから身を守りましょう。

・暖房が強すぎるなどして汗をかくとともに貯えていた気を消耗してしまうので、発汗に注意しましょう。

・身体を温めエネルギーを蓄える食事を心がけましょう。



冬の食養生

五行説に基づいて、冬は五臓のうち「腎」と関係性が強い時期として考えられています。

腎は生まれたときから備わっている生命エネルギー(先天の気)の貯蔵場所とされています。

腎は冬の間のエネルギーを維持し、活動が活発になる春のためにエネルギーの備蓄を行っています。


エネルギーを蓄えるため「腎」の機能を高める食品を摂ることがポイントです。


腎の機能を高める食品のキーワードは「黒いもの」「ぬるぬるしたもの」になります。

黒豆、黒米、黒ごま、黒きくらげ、昆布、海苔、ひじき、もずく、わかめ、山芋、いか、帆立、うなぎ、明日葉 など


体を冷やさないよう体を温める食品も積極的に取り入れるのがよいですが、香辛料により発汗が促されるので、摂りすぎに注意しましょう。


生姜、ニンニク、唐辛子、ニラ、シナモン、山椒、胡椒 など


ぬるぬる・ネバネバの成分

  ムチン、ペクチン、アルギン酸などがあります。


  働きとして…

  ・粘膜を保護

  ムチンは体内のあらゆる器官の粘膜を覆う表面を保護する成分です。

  胃腸炎の予防や回復に役立ちます。

  鼻やのどの粘膜を潤し、風邪やインフルエンザなどを予防します。


  ・消化を助ける

  ムチンにはタンパク質分解酵素も含まれます。

  タンパク質の消化吸収を助けます。


  ・腸を整え、免疫力に働く

  アルギン酸、ペクチンは水溶性の食物繊維のひとつです。

  腸内の善玉菌を増やして便秘を予防します。

  血中コレステロールを下げる働きもあります。


  ムチン…長芋、山芋、レンコン、なめこ、納豆

  ムチン・ペクチン…オクラ、モロヘイヤ、ツルムラサキ

  アルギン酸…わかめ、昆布、めかぶ、もずく



冬のトラブル

冬は腎と関係性が強い時期として考えられていますが、腎は成長や発育に関わり、骨や腰とも密接に関係しているとされています。

この腎の働きが衰えると、腰や膝などの運動器のトラブルが起こりやすくなります。


腎は水分調節とも深く関係しています。

冬は皮膚がかたく収縮するので、皮膚からは水分が排出されにくくなり、体内の不要な水分のほとんどは腎と膀胱の働きによって尿として排出されます。

腎への負担が大きくなるため、頻尿、膀胱炎などの泌尿器のトラブルが多くなります。


季節によって身体の負担になりやすいところを意識して過ごすことも養生につながり大切だと考えます。



漢方のいろは:五行説(2023年 10月)

薬剤師 宇喜多 和美


五行説(ごぎょうせつ)とは中国古来の世界観のひとつであり、自然界のあらゆるものは「木」「火」「土」「金」「水」(もっかどごんすい)の5つの要素に分類でき、これらは互いに助けて促進し合い、抑制し合うことで、自然界のバランスを保っているという考え方です。

 

助けて促進する関係を相生(そうせい)、抑制する関係を相克(そうかつ)といいます。

 

相生(助けて促進する関係)

「木をこすり合わせると火がおき、火によって焼かれた後には灰が残り、灰は土になり、土から鉱物(金)が生まれ、鉱脈から水が湧き出て、水を得てはじめて木は成長できる」

相克(抑制する関係)

「木は土の養分を吸収して成長し、土は土手となって水をせき止め、水は火を消し、火は金(金属)を溶かし、金は斧や鋸となって木を切る」

五行の特性 

は成長してゆく樹木のように、曲がったり真っすぐ伸びたりしながら上へ外へと広がり、束縛や自由にできない環境を拒むことから、成長発展、のびやか、円滑、曲げ伸ばしといった性質を持ちます。

 

は、炎は上に向き、熱や光を発し、空気の上昇や流動を起こすことから、炎上、発熱、立ち上がる、といった性質を持ちます。

 

は農作物を育てる大地のように何かを生み出し、万物を受け入れて納め、それは地中で変化して大地を豊かにし、万物の養育のもとになることから、養育、受納、変化する性質を持ちます。

 

は金属の特性として熱伝導がよいために清涼感があり、汚れにくく汚れを落としやすいために清潔感があり、収斂性があり、重厚感があり、任意の形に成形することができることから、清涼、清潔、収斂、粛静(ひっそりと静か)、変革、といった性質を持ちます。

 

は液体であり上から下に流れ、物を湿らせて潤し、火を消し、性質は寒であり冷やし、下行、寒湿、滋潤の性質を持ちます。 

五行色体表  


人もまた自然界の一部と捉え、人体の働きを五行説にあてはめて考えます。五行説に基づいて、自然界と人体を五行に分類し、表にしたものが五行色体表です。

五季…病気の出やすい季節

五方…病気の出やすい方角

五悪…病因となる外気

五色…患者の肌の色

五味…五臓の好む味

五臓…心包を加えて六臓と呼ぶこともある

五腑…三焦を加えて六腑となる

五志…感情の分類

五香…病人の体臭や口臭

五根…関係深い感覚器官

五支…五臓の変調が現れる部位

五体…五臓との関連部位

五声…関連する音声

五液…五臓の分泌液

五労…病みやすくする動作

五変…関連する症状

 

※1面色…顔色

※2肌肉…真皮と筋肉

※3皮毛…表面の皮膚と産毛

※4臥(が)…横になって寝る


漢方のいろは:秋の養生(2023年 9月)

薬剤師 宇喜多 和美

四季にはそれぞれの適切な過ごし方があります。

今の季節をいかに過ごすかが、次の季節を健やかに過ごせるかどうかにもつながります。

今回は、秋はどのように過ごすのがよいのか、秋の養生についてお伝えいたします。


二十四節気(にじゅうしせっき)

二十四節気とは1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つ、約15日ずつに分けたもので、今でも春分、夏至、秋分、冬至など、季節を表す言葉として用いられています。

二十四節気はその年によって1日程度前後することがあります。

その中で秋とは立秋(8/8頃)、処暑(8/23頃)、白露(9/8頃)、秋分(9/23頃)、寒露(10/8頃)、霜降(10/24頃)から冬に入る立冬(11/7頃)までをいいます。


秋の養生について

秋は気候がだんだんと寒くなって、日照時間が短くなります。

減っていく日照時間を有効に活用するためにも、早寝早起きを心がけましょう。

秋は身体にとっても収穫の季節で、十分に休息をとり、夏の間疲れた体を癒し、消耗した体力を養うことが大切な時期です。


葉が色づいて落ちるため、人々は心の中で物寂しさを感じ、情緒が不安定に、感傷的になりやすく、憂鬱な気持ちになる傾向があります。

心静かに、気持ちをできるだけ平穏に保ち、心配事や悲しみで感傷的にならないように心がけることが大切です。


秋は気候の変化が大きい季節です。

初秋はまだ暑さや湿気が残り、中秋になると空気が乾燥し、晩秋には寒さを感じるようになります。

徐々に寒さに慣れていくことが大切で、慌てて厚着をしないように、まだ寒くなりきらないうちから厚着をすることは避けましょう。

あまり早く厚着をすると、体内に熱を発生させて汗をかくようになり、水を消耗させて気も排出してしまいます。

秋は天気も激しく変わりますので、急に気温が下がった時や雨の時などはこまめに衣服の調整をするようにしましょう。


秋になると気温が下がり始め、湿度が低くなり、空気が乾燥してきます。

五行(※1)の考え方では秋(※2)は肺(※3)に対応しており、乾燥した気候は肺に負担をかけます。

夏は発汗量が多く、からだを潤す水も消耗してしまう傾向にあるため、秋になると乾燥による不調が起こりやすいとも考えられています。

特に鼻、喉、気管支、肺などの呼吸器系の不調がよく起こり、鼻の乾き、喉の痛み、咳などが出やすくなります。

五行の考えでは肺は皮膚と密接な関係があるとされていることもあり、肌が乾燥して荒れてしまいやすい時期でもあります。


(※1)万物は「木・火・土・金・水」の5つの元素から成り立つとする考え方

(※2)季節を5つに分けたものが五季「春・夏・長夏・秋・冬」

(※3)人もまた自然界の一部と捉え、人体の働きを五行にあてはめ、5つに分けたものが五臓「肝・心・脾・肺・腎」


秋の食養生としては潤して乾燥を防ぎ、肺を助けるものがよいと考えられ、白きくらげ、梨、白胡麻、ゆり根、大根、山芋、蓮根、蜂蜜などがあり、色の白い食材が多い特徴があります。


気を消耗して冬に備えられなくなるため、秋は過度な運動は控えるようにしましょう。


秋の養生まとめ

・早寝早起き

・気持ちを平穏に保つ

・慌てて厚着をせず、こまめに衣服を調整する

・乾燥から呼吸器、皮膚を守る

・色の白い食材

・過度な運動は控える


漢方のいろは:気血水と陰陽(2023年 7月)

薬剤師 宇喜多 和美

 基本的な人体の構成成分を「気血水」と考えますが、気を陽に、血・水を陰に分けて考えます。気は機能的なものであり、血・水は器質的なものになります。

 陽は身体をあたため、陰は冷やす働きをするように、身体の熱寒も陰陽のバランスが関係しています。


陰陽の失調と現れる症状

陽虚(ようきょ)

 気の不調のひとつに気虚がありますが、陽虚(ようきょ)は気虚が更に進んで、特に身体を温める働きが落ちている状態です。


 現れる症状としては・寒がり・強い冷え・むくみ・頻尿・水様性の下痢、などがあります。

 養生としては、季節を問わず身体を冷やさず温めることが大切で、冷たいもの、身体を冷やす食材の摂りすぎに注意し、温かいもの、温める食材を積極的に取り入れることが食養生になります。


 温める食材…生姜、長ネギ、ニラ、玉ねぎ、紫蘇、にんにく、栗、かぼちゃ、シナモン、山椒、胡椒、唐辛子、納豆、羊肉、鶏肉、エビ、鮭、黒砂糖、くるみ、松の実 など


 冷やす食材…トマト、きゅうり、なす、もやし、ゴーヤ、蓮根、たけのこ、ゆりね、ごぼう、大根、セロリ、バナナ、すいか、りんご、はとむぎ、こんぶ、ひじき、わかめ、かに、たこ、豆腐 など


陰虚(いんきょ)

 陰虚(いんきょ)は津虚(水の不足)もしくは血虚が更に進んで、身体を潤しているものが不足している状態です。

 陽は身体をあたため、陰は冷やす働きをするため、陽の熱を陰が冷やしきることができず、体に熱がこもって熱くなりやすくなります。


 現れる症状としては・手足のほてり・コロコロ便・空咳・寝汗・口、のど、目の渇き・夕方以降に微熱が出やすい・頬が赤くなりやすい・皮膚の強い乾燥、などがあります。


 生活養生としては、汗をかきすぎると身体の水分が少なくなり、陰虚が助長される可能性があるので注意し、こまめな水分補給をこころがけること、食養生としては身体を潤す食材、その中でも熱を助長しないもの(平※)、冷ます傾向のある食材(涼・寒)を取り入れることが挙げられます。


 ゆり根、れんこん、やまいも、おくら、トマト、きゅうり、白きくらげ、白ごま、すっぽん、あわび、はまぐり、梨、柿、びわ、すいか、豆腐、豆乳、豚肉、鴨肉


 ※食べ物がもたらす作用にかかわる5つの性質を「五性」といい、それぞれ「寒(かん)」「涼(りょう)」「平(へい)」「温(おん)」「熱(ねつ)」の5つの種類があります。


・酸甘化陰(さんかんかいん)といって酸味と甘味を取ることで陰液(からだの体液)を作り出すと言われています。

 例えば、梅干しとご飯、レモンとはちみつなどの組み合わせがあります。

 日常手に入るトマト、りんご、梨、ぶどう、メロンなどは、自然の甘みと酸味が備わっていて、身体を潤すとされています。


・「刺激の強いもの、辛いもの」は陰液を消耗するとされているのでなるべく避ける。

唐辛子、コショウなどの香辛料や、生姜、ネギ、ニンニクなどの辛み野菜の摂りすぎに注意しましょう。

 


次回は「五臓」についてお伝えします。

漢方のいろは:陰陽について(2023年 6月)

薬剤師 宇喜多 和美

 この世の万物、すべての現象は「陰」と「陽」のどちらかに分類できるという考えを基本としています。

 陰と陽は互いに対立して、抑制しあい、また助け合い、依存しあう関係でもあります。


 物質や現象にはすべて対立した陰と陽の二面をもちます。

 陰と陽のどちらかが良くてどちらかが悪い、ということはありません。

 陰陽どちらも必要で、陰と陽は互いに制約しあうことで、片方が行き過ぎないようにバランスをとっています。

 身体も陰と陽の二面を持ちます。健康は陰と陽のバランスによって左右されて、病気はそれが崩れることで発症します。つまり健康とは体内の陰陽のバランスがとれている状態と考えます。


 陰があるから陽があり、陽があるから陰があるように、相互の存在がそれら自身の存在の前提となっていて、陰と陽がそれぞれ独立して存在することはありません。

 例えば1日の中で昼は陽、夜は陰にあたりますが、昼がなければ夜もありません。


 また常に一定な昼と夜の区別がなされるようなことはなく、昼から夜に向けてまた夜から昼に向けて常に変化していくように、陰陽はお互いの力関係に基づいて絶えず変化していて、一瞬たりとも静止することはありません。


 物質や現象には陰陽の両面がありますが、陰は陽に、陽は陰に変化することもあります。

 「陰、極まれば陽となり、陽、極まれば陰となる」という言葉がありますが、物質や現象はある一定の程度・段階に達すると、陰は陽に、陽は陰に転じることがあります。


 四季を例にして考えてみますと、冬の寒さ(陰)が極まると、必ず春の暖かさ(陽)が来て、夏の暑さ(陽)が盛りを過ぎると、必ず秋の涼しさ(陰)が来ます。

 夏至は自然界の陽気が最も極まる日であり、冬至は自然界の陰気が最も高まる日です。



 次回は気血水と陰陽についてお伝えします。


漢方のいろは:水について(2023年 5月)

薬剤師 宇喜多 和美

 漢方では人体の構成成分を「気(き)血(けつ)水(すい)」ととらえます。

 そのうちの「水」とは、体内を流れる無色の液体であり、人体内の正常な水分のことをいい、血液以外の全ての体液と分泌物(リンパ液、消化液、尿、汗、鼻水など)を意味します。体中に分布されて全身を潤す役割をし、水分代謝や免疫力にも深く関わります。

 関節に至った水は関節をなめらかに潤してはたらきを円滑にします。


 水は栄養をあたえる作用もあり、血脈内に浸透した水は血脈に栄養を与えて、血液を造り出す作用ももちます。


水の失調と現れる症状

水滞(すいたい)

水の過剰や滞り、体内の水の偏在が起こっている状態です。

・むくみ

・身体が重だるい

・重苦しい痛みがある

・頭重感

・脈打つようにズキズキ痛む頭痛

・ぐるぐるするめまい

・朝のこわばり

・しびれやすい

・冷えやすい

・胃のぽちゃぽちゃ音

・水様性下痢

・軟便傾向にある

・車酔いしやすい

・尿量減少又は多尿

・水様の鼻水

・唾液分泌過多

・痰がからみやすい

・喘鳴

・舌の淵に歯形が付く

・舌の苔が分厚い

・雨の日に具合が悪くなる

・梅雨時期に体調が悪くなる

・脂肪が多い

・月経前にむくみがひどくなる

・おりものが多い


津虚(しんきょ)

中医学では水のことを津液(しんえき)としています。

水(津液)の不足による潤す力、栄養をあたえる力が失調している状態です。

組織液の不足により主に乾燥の症候がみられます。

・鼻、咽頭や口唇の乾燥

・口渇

・声が枯れる

・皮膚が乾燥してカサカサする

・空咳

・便秘

・コロコロ便

・尿量の減少

・関節が動かしづらい



水滞体質の養生

・湿気に注意し、湿気のこもらない生活をこころがける

・湿度の高くなる梅雨時期などは不調になりやすいので注意

・新陳代謝を促す入浴は長めにとる

・身体を冷やさない

・水分を必要以上に摂りすぎず、1回分は少量をこまめに摂る


食養生

・あずき・緑豆・こんぶ・のり・わかめ・とうもろこし・きゅうり・トマト・冬瓜・えんどうまめ・緑豆もやし・スイカ・梨・アサリ・シジミ・こんぶ・海苔・ワカメ・はまぐり・クラゲ・ハトムギ・鴨肉・鶏肉



津虚体質の養生

津虚になる原因としてまず水(津液)生成不足が考えられます。

水は飲食物からつくり出されるため、飲食の不摂生や摂取不足が要因になります。

また加齢により水(津液)は消耗していく傾向があります。

そして水の消耗過多(高熱や長期にわたる熱、激しい下痢、 嘔吐や発汗過多、不適切な利尿剤や発汗剤の使用など)も考えられます。

・消化の良いもの、胃腸に負担をかけない食生活を心がける

・激しく消耗する行動を避け、寝不足などの不摂生をしない


食養生

・酸甘化陰(さんかんかいん)といって酸味と甘味を取ることで陰液(からだの体液)を作り出すと言われています。

例えば、梅干しとご飯、レモンとはちみつなどの組み合わせがあります。

日常手に入るトマト、りんご、梨、ぶどう、メロンなどは、自然の甘みと酸味が備わっていて、身体を潤すとされています。


・色の白い食材は身体の潤いを作ると言われています。

白きくらげ、百合根、蓮根、山芋、梨、松の実、白ごま、豆腐など


・「刺激の強いもの、辛いもの」は陰液を消耗するとされているのでなるべく避ける。

唐辛子、コショウなどの香辛料や、生姜、ネギ、ニンニクなどの辛み野菜の摂りすぎに注意しましょう。



次回は「陰陽」についてお伝えします。

漢方のいろは:血について(2023年 4月)

薬剤師 宇喜多 和美

 漢方では人体の構成成分を「気(き)血(けつ)水(すい)」ととらえます。

 その内の「血」とは体内を流れる赤い液体であり、いわゆる血液とその中の栄養を意味します。全身に栄養を供給し、潤す働きをして、ホルモンバランスの調整もします。


血の失調と現れる症状

血虚(けっきょ)

血の不足によって人体が栄養不足になり、潤いが不足している状態です。


・皮膚がカサカサする

・顔色が悪く(白く)つやがない

・爪がもろく色が薄い

・不眠、夢が多くて熟睡できない

・しもやけ、あかぎれになりやすい

・動悸がする

・めまい

・立ちくらみ

・手足がしびれる

・手足が冷えやすい

・疲労倦怠

・目が疲れやすい

・視力が悪くなる、目がかすむ

・便が乾燥して固く便秘がする

・こむらがえり

・不安感がある

・物忘れが多い

・手足のほてり、寝汗がある

・月経量が少ない

・経血の色が薄い

・月経周期が遅れがちになる

・キューっとしぼられるような月経痛がある

・月経の後半に痛みが増す



瘀血(おけつ)

血の流れが停滞を起こしている状態です。


・慢性的に同じ部位に刺すような痛みがある

・顔色が悪い(黒い)

・目の下にクマができやすい

・冷え、のぼせがある

・下半身や手足が冷えやすい

・下腹部を押すと痛みがある

・肌荒れしやすい

・しみ、あざができやすい

・そばかす、くすみが気になる

・肩こりがある

・血中コレステロールや中性脂肪が多い

・血管が浮き出て見える

・子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、卵巣嚢腫などの婦人科疾患がある

・痔になりやすい

・刺すような強い月経痛がある

・月経周期が遅れがちになる

・経血の色が暗赤色

・経血にレバー状の塊がある

・月経量が少ないもしくは多い



血虚体質の養生

生活養生

・食事を抜いたり、偏食少食のないようにする

・無理なダイエットはしない

・長時間パソコンやスマホを見続けるなど目の使い過ぎに注意する

・夜更かしなどせず早寝をする

・体力を過度に消耗するような激しい運動は避ける

・過労にならないように休養をとり体を回復させる


食養生

・血を補うとされる黒色や赤色の食材を積極的に摂る


黒豆、黒米、ひじき、ホウレンソウ、にんじん、黒きくらげ、ナツメ、クコの実、松の実、牡蠣、タコ、イカ、羊肉、レバー、牛肉、卵、ライチ、黒ごま、クルミ、落花生



瘀血体質の養生

生活養生

・長時間の同じ姿勢は避ける

・身体を冷やさない

・血行を良くするために入浴はシャワーでなくしっかり湯船につかる

・積極的に身体を動かす

・ストレスをためないよう、ゆったりとした時間をつくり、リラックスを促す


食養生

・揚げ物やお肉中心の食事、バターやラードなど脂肪の多い食品の摂りすぎに注意する


タマネギ、ニラ、ネギ、ニンニク、なす、ピーマン、ちんげんさい、みょうが、らっきょう、よもぎ、桃、ブルーベリー、かに、あじ、黒酢、山椒、酒、紅花、山査子、ウコン



次回は「水」についてお伝えいたします。


漢方のいろは:気について(2023年 3月)

薬剤師 宇喜多 和美

「気」とは人体の構成成分のうちのひとつで、生理機能やエネルギーで、絶えず変化しているものです。そのエネルギーとは、生きていくための肉体的、精神的なエネルギーであり、「血」「水」を動かすエネルギーです。


気の具体的な働き

推動(すいどう)作用

身体のあらゆる生理活動、例えば、血液循環、成長発育、新陳代謝、ホルモン分泌などを促進する働き。

温煦(おんく)作用

身体を温め、機能を活発化して、体温を正常に保つ働き。

防御(ぼうぎょ)作用

身体の外表面を守り、外部からの邪気の侵入を防ぐ働き。また、このような働きをする気を衛気(えき)といいます。

気化(きか)作用

血や水の生成と水の代謝および汗や尿への転化をコントロールする働き。

固摂(こせつ)作用

血、汗、尿などがもれるのを防ぐ働き。


以上5つの働きがあり、これらは相互に関連して作用します。



気の失調と現れる症状

気虚(ききょ)

気の不足、すなわち機能低下・エネルギー不足が起こっている状態。

・身体がだるい

・気力が無い

・疲れやすく体力がない

・食欲不振

・消化不良

・下痢をしやすい

・風邪をひきやすい

・息切れする

・食後に眠くなりやい

・日中眠気が強い

・汗をかきやすい

・出血傾向(鼻血や不正出血)

・尿が薄くて多い

・冷えやすい、寒がり

・声が小さい

・月経の周期が短い

・月経の期間が長い


気滞(きたい)

気の巡りが悪くなって停滞するなどの運行障害、機能障害が起こっている状態。

・ストレスが多い

・イライラしやすく怒りっぽい

・抑鬱傾向(気分がふさいで憂鬱になりやすい)

・胸脇苦満(肋骨の下が張って圧迫感があって苦しい状態)

・喉がつかえて異物感がある

・ガスがたまりやすい

・げっぷやおならが出ると楽になる

・便秘傾向

・便秘と下痢を繰り返す

・月経前緊張症群

・月経周期が安定しない

・変動性・遊走性の痛み

・時間により症状が変化しやすい


気滞の一種で、本来下降すべき方向性を持っている気が逆方向へと上昇してしまう状態を気逆(きぎゃく)といいます。

・げっぷが出やすい

・冷えのぼせ

・咳

・悪心・嘔吐

・しゃっくり

・呼吸困難

・発作性の頭痛

・発作性の動悸

・めまい


気虚体質の養生

生活養生

・しっかり休む

・睡眠をしっかりとる

・消化の良いもの、胃腸に負担をかけない食生活を心掛け、食べすぎない

・食事は抜かない

・汗をかきすぎるような激しい運動や長風呂などは避ける


食養生

かぼちゃ、キャベツ、アスパラガス、ブロッコリー、やまのいも、じゃがいも、さといも、さつまいも、しいたけ、まいたけ、アボカド、枝豆、えんどう豆、グリーンピース、そら豆、さやいんげん、苺、さくらんぼ、バナナ、玄米、もち米、きび、あわ、大麦、小麦、蕎麦、大豆、栗、鰻、海老、鮭、帆立貝、はちみつ、鶏肉、豚肉、牛肉、鴨肉、羊肉


気滞体質の養生

生活養生

・規則的な生活

・ストレスをためないよう、ゆったりとした時間をつくり、リラックスを促す

・心地の良いと感じる香りを生活の中に取り入れる

・柑橘類や梅干し、黒酢などの酸味を食事に取り入れる


食養生

セロリ、春菊、みつば、紫蘇、ミント、パセリ、パクチー、せり、クレソン、小松菜、グレープフルーツ、みかん、ゆず、かぼす、シークワーサー、オレンジ、金柑、胡椒、八角、フェンネル、菊花、陳皮、ミント、ジャスミン


次回は「血」についてお伝えいたします。


漢方のいろは:気血水(2023年 2月)

薬剤師 宇喜多 和美

漢方薬は病名に合わせて選ぶのではなく、その人の体質や症状に合わせて選びます。

ゆえに病名が同じであっても人によって適した漢方薬が異なる場合があります。

まずは体質や症状の状態を把握するにあたり基礎となる漢方の人体のとらえ方をお伝えしていこうと思います。


漢方では人体の構成成分を「気(き)血(けつ)水(すい)」ととらえます。


「気」…生きていくための肉体的、精神的なエネルギー

    成長促進、血液循環、ホルモン分泌などの生命活動を促進する

    「血」「水」を動かすエネルギー


「血」…体内を流れる赤い液体

    いわゆる血液とその中の栄養

    全身に栄養を供給し、潤す

    ホルモンバランスの調整もする


「水」…体内を流れる無色の液体

    人体内の正常な水分

    全身を潤す

    血液以外の全ての体液と分泌物(リンパ液、消化液、尿、汗、鼻水など)

    水分代謝や免疫力にも深く関わる

    


「健康な状態」「元気な状態」というのは、この三要素が過不足なくバランスを保ち、スムーズに巡っている状態をいいます。

しかし、いずれかの要素が1つでも過不足や停滞をきたすと、身体や精神にさまざまな症状となって現れます。

どの要素が不足しているか、過剰なのか、巡っていないのかは人によって違います。


生まれ持った身体の傾向と、生活習慣が積み重なることで出てくる身体の傾向を合わせてその人の体質になります。

また、出ている症状の状態を合わせて判断し適した漢方薬を選んでいきます。


次回は「気」のことをより詳しくお伝えいたします。